肌暦 Hadakoyomi
5月末くらいから、私の肌質が変化した。
毎年のことである。
朝起きたとき、二の腕の内側や、下着の締め付け部分などに、蚊に刺されたようなボコボコがいくつか現れていた。かゆいし、掻くと荒れるし、見た目もよろしくない。
最初の頃は、本当に蚊に刺されたのだと思っていた。だけどそうじゃないことは、すぐにわかる。2時間くらい経つと、ボコボコが消えてなくなるから。
朝だけでなく、夜中にも症状は出る。
お布団の中がホカホカしてあったかいなぁ、というときに出がち。
愛犬とのお散歩から戻ったあとにも、出がち。
お風呂上りもかゆくなる。
多分、体があったまると出るのだろう。
高温多湿が私の肌には障るらしい。
それからしばらくして、東北が梅雨入りした。
皮膚科の先生に相談したら、ジンマシンだと言われた。急に出て、かゆみと赤みがあって、短時間で消える。それがジンマシン。
ジンマシンってアレルギーのイメージだったから、ちょっと意外。辞書を引いたら、寒冷刺激もジンマシンの原因になるようだ。
そういや私は、真冬には寒い廊下に出た途端によく鼻を詰まらせていた。寒暖差アレルギーだろうか。わからないけど、とにかく私は季節の具合に翻弄されるらしい。
6月いっぱい、私の肌はそんな調子。
7月に入っても変わらず。――と思ったら、昨日7月3日の朝、肌質がまたガラリと変わった。
サラサラする。
かゆくない。赤くもない。
すっきりとした肌色。
なんか、肌にふれる空気が、気持ちいい。
ウキウキする。
「私の肌感覚によるとね、多分、季節がほんの少し、巡ったんだと思うよ」
母に喜びと解説を熱く語るが、「はいはい」と流される。母にとっても、もはや「毎年のこと」なのである。
「きっと夏に近づいたんだよ」
「はいはい」
その日私は、今年初めてのセミの声を聞いた。