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父のこと/命のこと

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2021年、コロナ禍に脳梗塞で逝った父のこと。いくつもの重い決断を迫られた、私たち家族のこと。その後の、日々の暮らしのこと。/父に限らず、命のことをテーマにした内容です
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#里山暮らし

8ヶ月前の「虫の知らせ」

「虫の知らせ」というものを、私は信じることにしている。それはラジオの周波数のようなもので、身内は周波数が似ているからキャッチしやすいのだ、という話を聞いたことがあるから。 それに、宇宙も含めこの世界というのは、あらゆる空間に素粒子が詰まっているらしい。だとしたらどこかで誰かに何か変化があったとき、素粒子が揺らぎ、波動のようなものを感じてもおかしくはないと思うから。 6年前、私と夫との関係に、大きな亀裂が入った。それから4年間、夫婦生活を続けてみたが――もう無理だ、私の心身

見習い農耕民族、草刈り機を装備する

この4ヶ月の間に変わったこと。 母は、火が怖いから野焼きはしないと宣言していたが、ご近所さんからコツを教わり、やるようになった。 私も、怖いから使わないと決めていた草刈り機(刈り払い機)を使うようになった。しかも新品。私の専用機。 常々母が「危ないから使わせたくない。あんだはケガしたらただじゃ済まない体なんだからダメだ」と免疫異常体質の私に言い聞かせてきたのに、「店さ見に行って、軽いのあったら使ってみっか?」と言い出したのには驚いた。 それだけ母が、この夏一人で草刈り機を

父の柿の木

父がまだ子供だった頃から、うちの畑の土手には三本並んだ柿の木があった。いつからか父は私たちに、真ん中の柿の木だけは切るな、と言うようになった。 のちに母から聞いたのだが、職人気質で完璧主義のあの父が、トラクターの運転中、土手から落ちそうになったことがあったらしい。トラクターの下敷きになって命を落としたという訃報を、田舎では時々聞く。だけど父は、運良く柿の木に引っかかって助かったという。 「俺はあの柿の木に命助けられたのだがら。あれだけは切ってダメだがんな」 父の言いつけ