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【開催報告】組織変革のパラドックスを乗り越える"新時代のリーダーシップ"とは?

先日「組織変革のパラドックスを乗り越える新時代のリーダーシップ」というタイトルでウェビナーを行いました。

この記事では、ウェビナーで話した内容をざっくりと要約し、ウェビナー後に考えたことを書いてみたいと思います。

ウェビナーの内容は、登録を行えば期間限定で動画を無料視聴できます。ご興味ある方は動画をご覧くださいませ。


組織変革のパラドックスとは?

組織変革のパラドックスとは?

「組織変革のパラドックス」と言われると、少し難しい印象を受けると思いますので、できるだけ簡単に説明したいと思います。

「組織を変えよう!」と思ったら、「短期的な成果と、長期的な成果どっちを追うの?」、「既存事業の強化か、新規事業への投資か?」などといった選択肢を迫られますよね。

これはどちらの選択肢も、単独で見れば「正しいこと」を言っています。短期的成果も大事だし、長期的成果を大事。

でも、両方やろうとすると、急に困ってしまう。こういう問題を、組織変革のパラドックスと捉えようというわけです。

新時代のリーダーシップとは?

矛盾を受容するリーダーシップ

ではこれをどのようなリーダーシップで乗り越えるべきなのでしょうか?

一般的に、リーダーといえば「決断できる人」という印象が強いのではないでしょうか。「AかBか?」なんてチマチマと悩んでいるのではなく、「これだ!」と決めて突き進む!それこそが、矛盾を乗り越えるリーダーシップだ!と思う方もいるかもしれません。

しかし、組織変革において実際に必要なのは「矛盾を乗り越える」というより、むしろ「矛盾を乗りこなす」感覚です。

近年のリーダーシップ論では、矛盾を受容するリーダーシップ(パラドックス・リーダーシップなどと言われます)の重要性が主張されています。

具体的には、矛盾と出会ったときに、すぐに「AかBか?」を決めるのではなく、一度AとBの矛盾を受容します。その上で、AとBを両立する策を考えることが、矛盾を乗りこなす新たなリーダーシップ論といえるのです。

リーダーに求められるパラドックス思考とは?

パラドックス思考の特徴

私はこの矛盾との向き合い方について、共著者の安斉勇樹さんと共に「パラドックス思考」という書籍にまとめました。

この書籍のポイントは、困難に直面した時の「感情」に注目します。

例えば「組織において、過去のやり方を続けるのか?未来に向けて制度を変えるのか?」という状況があるとします。こうした明確にAか、Bか?という対立が意識される状況をジレンマと呼びます。

ジレンマの状況に置かれると、私たちの心はザワザワ・モヤモヤしてきます。

私たちが注目するのは、この時に心の内側で起こる感情です。具体的には「変わりたいけど、変わりたくない」といった矛盾した感情を受容することが、より良い問題解決の鍵になると考えます。

外側のジレンマではなく、内側の感情パラドックスに注目する

人間は「変化か、安定か?」ではなく「変化したいし、安定もしたい」という欲張りな欲求を持っているという前提に立ちます。

「組織を変えたい!」という人であっても「じゃあ組織を全て変えたいのですか?」と言われると、答えは「No」でしょう。

そもそも「組織を変えたい」と思うのは「自分の好きな組織が変わってしまうのが嫌だから、組織を変えたい」と思っていたりします。

これは「変わりたくないから、変えたいという感情」であることがわかります。大変ややこしい感情ですね。このような、曖昧で一見矛盾しているような感情を受け入れて、両方を満たすような選択肢を考えるのがポイントです。

これを受け入れずに「変化か、安定か?」という二者択一の問いに変換してアクションを行うと、結局、自分の感情が満たされません。思い切って決断してアクションしているにも関わらず、真の問題が解決されないのです。

つまり、大切なのは、いきなり決断をするのはなく、自分の中の矛盾する感情、ここでは「変化したいけど、安定したい」を受容することです。

その上で、それぞれの感情を満たす方向を考えることで、事前には思いつかなかったようなウルトラCの問題解決が生まれるというのが、私たちの主張です。

組織変革における「3つのパラドックス発生装置」

ここまで「組織変革のパラドックス」「新時代のリーダーシップ」「パラドックス思考」の3つのポイントについて説明してきました。

その上で、今回のウェビナーでは、組織変革において「何がパラドックスを発生させるのか?」「どのように対処すればいいのか?」という点について説明しました。これらは「パラドックス思考」の内容を大幅にアップデートさせたものです。

3つのパラドックス発生装置

まず組織変革のパラドックスを発生させる装置と、その対処法を以下の3つに整理しました。

(1)組織のハコの問題
ハコとは部署などの組織の境界のこと。ハコ同士の関係性がパラドックスを生み出す。ハコの「ヨコ・タテ・メタ」の関係が整合することで、シナジーを創出できる。

(2)組織のトキの問題
トキとはみている時間軸のこと。部署や役職によって見ている時間軸が異なることがパラドックスを生み出す。トキの「過去・現在・未来」の関係が整合することで、新しい価値を創出できる。

(3)自分のココロの問題
ココロとは自分のコンプレックスなど精神面のこと。自分の感情や認められたい思いがパラドックスを生み出す。自分の矛盾する感情を認めることで、組織変革を促進する。

それぞれについて詳しく説明してきましょう。

(1)組織のハコの問題:組織の境界が生み出すパラドックスとは?

組織のハコの問題とは、組織内の部署などのハコ同士の関係性がうまくいかなくなることで起こります。

組織は本来は「仲間の集まり」

組織とは、本来「仲間」の集まりです。しかし、組織は大きくなればいつか「仲間であり、敵である」(協力したいけど、負けたくない)というパラドックスを生み出すことになります。つまり、組織は必ずパラドックスを生み出す宿命にあるのですね。

敵であり、味方であるという状態に

その宿命を受け入れて、より良い状態を作るためには、お互いのハコの論理を理解することが大切です。いきなりハコを統合・整理してはいけないのです。

具体的にいえば、自分の部門以外の人たちと、こまめにコミュニケーションを取ったり、相手の話を傾聴したり、評価をするのではなく対話をしたりする姿勢が大切になります。

ハコのシナジーを生み出す構造を構築するのがリーダーの役割

自分のハコに閉じこもるのではなく、ハコを飛び出すコミュニケーションを行うこと。そして、上位のハコとの関係性を意味付けることによって、ハコ同士の関係性が整合していきます。

組織のハコに関する変革というと、組織図などを書き換えることが思いつくと思います。これはもちろん重要です。

しかし、人間のハコの認識は、組織図を変えただけでは伝わりません。個々人がハコの認識を変えて、受容する学習のプロセスを設計することが組織変革における重要なポイントです。

(2)組織のトキの問題:時間軸のズレが生み出すパラドックスとは?

次に説明するのは、組織のトキの問題です。組織内の部署や役職によって見ている時間軸が異なり、それによってパラドックスが発生します。

見ている時間軸のズレがパラドックスを生み出す

時間というのはとても厄介です。わかりやすく身近な例に置き換えると、「短期的には美味しいものを食べたいけど、長期的には痩せたい」といった具合に、短期と長期の欲求が整合しないことがよく起こります。

これは組織においても同じです。短期的な目標を達成したい。今ある強みを活かしたいと思うのは当たり前なのですが、それだけをしていると、長期的な成長力を失います。

つまり「短期か、長期か」といった具合に「時間同士を戦わせない」ことが重要で、「時間同士を味方にさせる」という発想が大切です。短期の欲求と、長期の欲求が整合するような関係性作りを構築するということです。

しかし、組織では大抵「短期的な成果を追う部門と、長期的な成果を追う部門が喧嘩をしている」といった状況が起こります。実際は両者が存在することによって組織全体の利益が保たれるわけなのですが、ハコ同士のケンカになってしまうのですね。

トキとハコの問題は同時に発生することもある

こうしたトキが生み出すパラドックスを解消するためには、見ている時間が「分散していることの価値」を理解し、「過去-現在-未来」がそれぞれの時間軸を「ありがとう」と受容して、シナジーを生み出す構造を作り出すことが求められます。

「短期か?長期か?」と時間同士を戦わせるのではなく、両方の感情を受容した上で「この短期を追うからこそ、長期に到達する」といったトキの整合性を作り出すことが、トキのパラドックスを解く鍵になるのです。

(3)自分のココロの問題:自分の感情が生み出すパラドックスとは?

最後のココロの問題とは、自分の中の矛盾する感情にうまく向き合えないことで起こるパラドックスです。

例えば、あなたが「権限移譲をして部下に仕事を任せたい」とします。この時に本当にこの感情だけが存在するならばいいのですが、そうではないこともよくあるでしょう。

「仕事を任せたいけど、自分の存在意義を示したい」、「自分がいない組織を作りたいけど、いなくても回る組織ができるのは嫌だ」など、矛盾する感情を抱えていることもあるのではないでしょうか。

このような感情を持ったまま仕事をしていると「部下に仕事を渡すけれど、失敗するや否やすぐに仕事を巻き取る」などをしてしまい、部下サイドは「任せたいのか、任せたくないのかどっちなんだ」といった複雑な感情を抱えることになります。

このように、自分の矛盾するココロと向き合わずに行動してしまうと、周りにモヤモヤした感情を広げることになり、むしろ自分自身が組織変革を阻むボトルネックとなってしまうのです。

自分が組織変革のボトルネックにならないようにする

そうならないためにも、自分の矛盾した感情を受容することが大切です。「自分の存在意義を認めてもらうことと、部下に仕事を渡すこと」はやり方次第で両立可能です。

まず矛盾した感情に向き合い、それを受容することで、メッセージがシンプルに伝わるようになり、自分もメンバーも「素直に変化しやすい環境」が生まれるのです。

矛盾を前提とした組織を作る

今回のウェビナーでは、パラドックスの発生装置の構造を示し、それらをいかに整合させるかについて説明をしてきました。一方で、矛盾は全て整合させればいいというものではありません。

組織は、その構造上、必ず矛盾を抱えます。よって、普段から「適度に矛盾に揺らいでおくこと」が大切です。

矛盾は本質的には消すことはできません。必ず矛盾を乗りこなす場面や、役割の人たちが生まれます。しかし、矛盾を忌み嫌っていると、それを受容することができません。

矛盾があることを前提として受け入れて、日頃から矛盾と気軽に遊び続けること。こうした習慣を持つことで、大きな組織変革をせずとも、日々の組織づくりの実践の中で、組織が成長していくものと考えます。

つまり、「矛盾と遊ぶリーダーシップ」を持つことが、組織に適度な「あそびと揺らぎ」を生み出し、組織を成長させ続けるのです。

矛盾をあえて活用することが重要

ウェビナーを終えて

ここまでがウェビナーの内容のざっくりとした概要です。概要だけでもこんな量になってしまいました。

まあそれもそのはず、当日のスライドは140枚近くありました(本当はそれ以上のスライドがあり、泣く泣く削りました)。

今回のウェビナーを終えての感想としてまず言えるのは、パラドックス思考を「組織変革や経営」の場面に焦点化して整理することができてよかったという点です。

書籍「パラドックス思考」を執筆した段階では、組織の問題に限らず、自分の日常に潜む問題や、キャリアの問題など、さまざまな問題に向き合うものとして執筆をしました。

もちろん、その一つに組織の問題も念頭において書いたのですが、「個人の考え方としては良いけれど、組織の問題には使えないのでは?」というコメントをいただくことがありました。

しかし不思議なことに、その一方では、いろいろな組織の経営者の方や役員層の方からは「自分が普段抱えている悩みをよく言語化してくれた!」とお褒めの言葉をいただくこともたくさんありました。

これはまたなんともパラドキシカルな状況です。「組織の問題に使えない」と言われるけれど、「組織の悩み」に向き合う人たちから感謝をされるのです。

この状況を解くためにも、書籍の中では説明しきれなかった組織の問題に特化した形でパラドックス思考を語ることは大きな意義があると思っていました。書籍では説明不足なところもたくさんあったということですね。それを今回形にできたのは一つ大きな価値があるように思っています。

そもそもの話でいくと、組織変革のパラドックスによる痛みは、理解するのが難しいという問題があります。それはウェビナーでもお話ししましたが、

  • 組織には本来、常にパラドックスの発生装置が作動している

  • しかし、小さなハコの中にいるとパラドックスを感じにくい

  • そのため、リーダーがなぜ悩んでいるかが理解できない

ということがあるからでしょう。

リーダーの感情パラドックスは理解されにくい

極端なことを言えば、矛盾のない組織はありません。しかし、矛盾を感じにくい場所と、矛盾を感じやすい場所があるということです。それが「リーダーの孤独の問題」を生み出しているとも言えます。

今回のウェビナーでは、リーダーが構造的にパラドックスに苛まれる構造を示すことで、感情パラドックスを一人で背負わせるのではなく、チームや組織の仕組みで支援することの重要性を示せたのかなと思っています。

矛盾と向き合うリーダーがいるからこそ、組織は成り立っている部分もあるのですが、ともすると「リーダーは何やっているんだ?」と石を投げてしまうこともしばしばあるのではと思います。

今回のウェビナーで一番伝えたかったメッセージは、

矛盾と向き合うリーダーに、石を投げるのではなく、感謝を届けて、支えよう。

ということです。

このメッセージが届いていれば、今回のウェビナーをやった価値があるのかなと思っています。

今回お届けした内容はさらにブラッシュアップを続けて、研究・実践を行っていこうと思っています。また考えをまとめていろいろな形で、発信をしていきたいと思います。

書籍パラドックス思考は、今回のウェビナーの土台となる考え方を整理しています。ご興味ある方はぜひ読んでいただけたら嬉しいです。

すでに読んでいただいた方も、ウェビナーの内容と合わせて読み直すことで、より深い理解につながるのではないかと思います。

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