どう書く神戸大国語1現代文2020

2020神戸大学 現代文(随筆・約5040字)45分
【筆者】西郷信綱(さいごう・のぶつな)
1916~2008年。大分県生まれ。東大文学部卒。横浜市立大名誉教授。上代文学・古代文学専攻。東大英文科に進学したが、斎藤茂吉の短歌に傾倒して国文科に転じ、丸山静とともに「アララギ」派の短歌に傾倒する。長く横浜市立大教授を務め、定年後に法政大教授。ロンドン大教授も務めた。1990年『古事記注釈』で角川源義賞。1995年、文化功労者。歴史学、人類学などの成果をとり入れた広い視野で、国文学研究に新しい面を切り開き、多くの問題を提起した。
【出典】『日本古代文学史』(岩波現代文庫2005年)「序 古典とは何か」の全文。
神話、古事記から物語文学、王朝和歌に至る古代文学の全体像の把握はいかにして可能か。著者は日本古代文学史を「神話と叙事詩の時代」「抒情詩の時代」「物語文学の時代」に分け、古代文学の誕生、展開、没落の歴史的必然の解明を試みる。古代文学史を全体として理解するための、画期的問題提起を行った労作の加筆決定版。
【解答例】
問一「その作られた時代とともに滅びず、現代人に対話をよびかけてくる潜勢力をもったもののみが古典である」とあるが、どういうことか。八〇字以内で説明しなさい。
〈ポイント〉
・「古い作品がわれわれに魅力を与えるのも、われわれの手持ちでない、だが持ちたいと欲する新しい何かが、時としてそこに潜在していると感じるからにちがいない」。
・「時代の文学経験や文学概念が、宣長や子規などの時代と異なる性質のものになっている」。
・「古典と呼ばれるもの」は、「過去と現代のあいだ、つまり過去にぞくするとともに現代にもぞくする」ものである。
・「日附がいかに古かろうと、文学として訴えてこなければそれは古記録である」。

★古典とは、過去と異なる性質の文学経験や文学概念を持つ現代人に対し、時代を超えて持ちたいという欲求を呼び起こすような文学的な魅力を訴えてくるものであるということ。(80字)

問二「その点、日本の古代文学史をどのように記述するかは、一つの実験的な意味をもつであろう」とあるが、それはなぜか。著者の考えを八〇字以内で説明しなさい。
〈ポイント〉
・「自国の古代の古典とわれわれほど因縁浅からぬ国民も少ない」。
・「異民族の武力的な侵入によって文化が中断されるような目にあわず、民族としての同質性をほぼ保ちながら、農耕を中心にこの列島上で近代まで独特な展開をしてきたひとつの典型的な民族の歴史がそこにある」。
・この日本の歴史は、「歴史上の事実の問題として」「希有の例にぞくしており」、「そのことによって文化や心性や美意識が」「特徴づけられている」。
・西欧の文学の歴史には、「日本にみられるような連続はなく、自国の文学がはじまるのはせいぜい『平家物語』に相当するものあたりからで、つまりわれわれのいう古代文学の領域をほとんど欠いている」。
・「古典的古代文明を有する大国の周辺に棲む諸民族のうち、古代文学史とよべるものがまともに成りたつところはあまりない」。

★古典的古代文明を有する大国の周辺で、異民族の侵入による文化の中断がなく、民族の同質性をほぼ保つ日本は、歴史に特徴づけられる文化や心性や美意識に連続性を持つから。(80字)

問三「将棋盤の上で碁をうつような仕儀」とあるが、どういうことか。八〇字以内で説明しなさい。
〈ポイント〉
・「近代人は神話を失うことによって小説を知り、古代人は小説を知らぬことにおいて神話を知っていた」。
・「文学史において叙事詩とか神話とか抒情詩とか劇とか小説とかいういくつかの形態〔=ジャンル〕が、全円的に一斉に成長し開花するというかたちをとらずに、あるものは早く、あるものはおそく現われ、また時期によりあるものは向上し、あるものか下降するという進み方になる」。
・「それぞれのジャンル」は「固有な機能をもっている」。
・「ジャンルは、歴史の内部ではたらき、歴史とともにうごくところの文学上の形式である」。
・「諸形態〔=ジャンル〕」は「めいめい異なる機能を内在させている」。

★歴史とともに変化する文学ジャンルに、めいめい異なる固有の機能が内在していることを無視し、特定の形態の文学を別の形態の方法で読もうとするのは意味のないことだから。(80字)

問四「古代文学史を個々の作品のよせ集めとしてではなく全体として理解する」とあるが、どういうことか。古典と文学史に関する著者の考え方を踏まえた上で、一六〇字以内で説明しなさい。
〈ポイント〉
・古典という「過去と現代に同時にぞくするものを、複雑に入りくんだ歴史的人間活動としてとらえようとするのが、文学史の役目」である。
・「古代人とは何かという問題に、文学史がそれなりにこたえるところ」として「肝腎なのは、古代人の世界のなかに想像的に住みこんでそこに身を置き、その世界に何が属し何が属さないかを見分けることだ」。
・「文学が歴史とからみあって描く軌跡」の「動的展開」の「多様性」は、「諸形態がめいめい異なる機能を内在させていることを前提としてのみ意味をもつ」。
・「ジャンルは、歴史の内部ではたらき、歴史とともにうごくところの文学上の形式」であり、「この運動にかかわらぬ静の形態分類学は役に立たない」。                               ・「諸ジャンルがそれぞれ異なる時期に発生するその過程と意味、また相互のつながりやその拮抗関係、これらを一貫的に見てとること」が大事であり、また困難なのである。

★過去と現代に同時に属する古典を、複雑に入りくんだ歴史的人間活動として捉えようとするのが文学史の役目であるが、文学が歴史とからみあう動的な展開は、静の形態分類学では描ききれないので、文学の諸ジャンルがそれぞれ異なる時期に発生するその過程と意味、また相互のつながりやその拮抗関係を一貫的に見てとることが必要であるということ。(160字)

問五 a=次第  b=時勢  c=憧憬  d=便乗  e=消息

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