どう書く名大国語現代文2016

2016名古屋大学 現代文(随筆・約3400字)45分
【筆者】山極壽一(やまぎわ・じゅいち)
1952年、東京生まれ。京大理学部卒、同大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。人類学者。日本モンキーセンターリサーチフェロー、京大霊長類研究所助手、京大大学院理学研究科助教授、教授を経て、京大総長を務めた。『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』(家の光協会)、『スマホを捨てたい子どもたち』(ポプラ新書)、『京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ』(朝日文庫)など著書多数。
【出典】「負けない構えの美しさをゴリラに学ぶ」(「学鐙」2015年3月号所収)。
【解答例】
問一 a=スルド(鋭い)b=カ(駆られて)c=ボウゼン(呆然)               d=膨らみ  e=興奮 f=採食 g=フル(震わせて)h=徹底    i=クップク(屈服) j=ウト(疎んじられ)

問二 A=イ B=カ C=エ

問三「私はシリーの方を見ないように目を伏せた」について、筆者はなぜこのような行動をとったのか。五〇字以内(句読点・かっこ類も字数に含める)で説明せよ。
〈ポイント〉
・「野生ニホンザルの調査をしてきた私」は、「相手を見つめるのは強いサルの特権であり」、「目を合わすと挑戦したと受け取られ、強いサルから攻撃されることになる」と思っている。
・「そのサルは自分の方が私より強いと感じているはずなので、刺激しないようにそっと目を伏せておく方が無難である」。
・「つかまれて咬まれ出もしたら重傷を負いかねない」。

★ゴリラもニホンザルと同じように、目を合わすと挑戦したと受け取られ、攻撃されることになると思ったから。(50字)

問四 ア・ウ・エ

問五「人間はサルではなく、ゴリラに近い社会性を持っているように見える」について、
(1)筆者は人間の社会とゴリラの社会にどのような共通点があると考えているか。五〇字以内(句読点・かっこ類も字数に含める)で説明せよ。
〈ポイント〉
・「けんかが起こりそうになったとき」、ゴリラで「仲裁」が可能なのは、「勝敗をつけることがトラブルの解決とされていないからである」。
・「ゴリラは勝ち負けを決めずに、第三者が仲裁に入ることによって対等性を維持する」。
・「子どものころから人間は負けず嫌いだし、トラブルを勝ち負けで解決するのではなく、第三者が仲裁して互いのメンツを保とうとする傾向が強い」。

★勝敗をつけるのがトラブルの解決とされていないので、第三者が仲裁に入ることによって対等性を維持する点。(50字)

(2)また一方で筆者は人間の社会とゴリラにどのような相違点があると考えているか。七〇字以内(句読点・かっこ類も字数に含める)で説明せよ。
〈ポイント〉
・「人間はゴリラほど徹底的に対等性にこだわるわけではない」。
・「相手に勝ちたい、仲間より優位に立ちたいという気持ちも持っている」が、「勝つことによって、実は自分が不利な状況に置かれることが多い」から、「慎重な気配り」を働かせる。

★徹底的に対等性にこだわるゴリラに対し、人間の社会では相手に勝ちたいという気持ちも働くため、不利な状況に置かれないように慎重な気配りをする点。(70字)

問六「勝つ構えより、負けない構えの美しさを尊ぶ社会」について、筆者はどのような社会と考えているか。本文に即して一一〇字以内(句読点・かっこ類も字数に含める)で説明せよ。
〈ポイント〉
・「勝っても勝者は敗者と友達にはなれない。でも、負けないでいようとすることは相手と対等な立場が目標なので、相手を屈服させたり押しのけたりすることにはならない。
・「友達を失わないし、かえって仲良くなれるかもしれないが、常にトラブルが起こる危険性が生じる」。
・「そのため、間を取り持ってくれる別の仲間が必要なのである」。
・「勝ちたいけれど友達は失いたくないから、勝利を誇らず、しきりに敗者に気配りをする」。
・「人間は互いに対等であることに常に気を配りながら社会を作ってきた」。
・「現代の社会は効率性を重視するあまり、勝敗をつけることでトラブルを解決する傾向を強めている」。
・その傾向は、「『負けまいとする態度』を『勝とうとする気持ち』に読み替えることによって加速している」。
・「負けたくないと思う子どもたちを見て、『勝ちたい』と思っていると誤解し、尻を叩いて勝たそうとする。その結果、不本意ながら勝利を手にした子どもたちは友達を失い、しだいに孤独になっていく。ねたまれ、うらまれ、疎んじられていじめにあい、孤立していく」。
・「そんな事態を深刻化させる前に防ぐには」、人間の「対等性をより重んじる社会」が「互いに静かに向き合う交渉を持つことによって保たれてきた」という由来をもう一度考える必要がある。
・「争わず、勝敗にこだわらず、対等で平等な関係を保つためには、互いに顔を合わせる機会を多く持ち、トラブルに仲間が機敏に反応して仲裁するような暮らしを設計することが不可欠」。

★効率性を重視するあまり、勝敗をつけることでトラブルを解決する傾向を強める現代にあって、互いに静かに向き合う交渉を持つことで対等性が保たれてきた由来を踏まえ、トラブルには仲間が機敏に反応して仲裁するような、人間らしい社会。(110字)

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