どう書く東大文系国語4現代文2017

2017東京大学 第四問 現代文(随筆・約2800字)35分
【筆者】幸田 文(こうだ・あや)
1904~1990年。東京生まれ。幸田露伴の次女。清酒問屋に嫁ぐが、10年後に離婚、娘を連れて晩年の父のもとへ。露伴没後、父を追憶する文章を続けて発表。1954年『黒い裾』で読売文学賞。1956年『流れる』で新潮社文学賞・日本芸術院賞。
【出典】「藤」。『木』(新潮社1992年)所収。
「樹木に逢い、樹木から感動をもらいたいと願って」、北は北海道、南は屋久島まで、歴訪した木々との交流の記。木の運命、木の生命に限りない思いを馳せる著者の眼は、木を激しく見つめ、その本質のなかに人間の業、生死の究極のかたちまでを見る。倒木の上に新芽が育つえぞ松の更新、父とともに無言で魅入った藤、全15篇が鍛え抜かれた日本語で綴られる。生命の根源に迫るエッセイ。
【解答例】
(一)「親が世話をやいた」とあるが、どういうことか、説明せよ。(2行=60~80字)
〈ポイント〉
・「郊外の農村」で「どこの家にもたいがい、なにがしか青いものが植えてあった」から、「子供たちはひとりでに、木や草に親しんでいた」。
・「私のうちではもう少しよけいに自然と親しむように」、「父」が「私」たち「三人きょうだい」「めいめいに木を与え」、「花の木実の木と、子供の好くように配慮をして、関心をもたせるようにした」。
・「葉がどの木のものか、はっきりおぼえさせるため」、「木の葉のあてっこをさせた」。
★三人の子どもが木や花に親しむように、めいめいに木を与えて手入れをさせ、葉がどの木のものかあてさせて、関心を持たせたこと。(60字)

(二)「嫉妬の淋しさ」とはどういうことか、説明せよ。(2行=60~80字)
〈ポイント〉
・「嫉妬の淋しさ」は、「ねたましく思う気持ちがもたらす淋しさ」である。
・「うまれつき聡いという恵まれた素質をもつ」「姉」は「葉がどの木のものか、はっきりおぼえ」るのが得意で「難なく当てててしまう」ので、そんな「出来のいい姉を、父は文句なくよろこんで、次々にもっと教えようとした」。
・それに対し、「鈍いという負い目をもつ」「妹」は、「教える人をなげかせ、自分も楽しまず、ねたましさを味う」。
・「妹はいつも置去りにされ、でも仕方がないから、うしろから一人でついていく」。
★出来のよさで父を喜ばせている姉をねたましく思いながら、後ろから一人でついていく妹の気持ちを、父も姉も気にとめていないこと。(61字)

(三)「こういう指示は私には大へんおもしろかった」とあるが、なぜおもしろかったのか、説明せよ。(2行=60~80字)
・「父は私にも弟にも、花の草木の話をしてくれた」。
・「教材は目の前にたくさんある」。
・「父」に「蓮の花は咲くとき音がするといわれているが、嘘かほんとか、試してみる気はないか」と言われた「私は夢中になって早起きをし」、「こすれるような、ずれるような、かすかな音をきいた」。
・「大根の花」には「うら淋しさ」があり、「蜜柑の花」には「元気にいきいきした気分」があり、「蓮の花や月見草の咲くのには、息さえひそめてうっとりした」。
・そんな「ぴたっと身に貼りつく感動」、「興奮」は、「鬼ごっこや縄とびのおもしろさとは、全くちがうたちのもの」だった。
★父から花の話を聞いて実際に確かめると、花に感情があるように感じられ、鬼ごっこや縄とびとは全く違う感動と興奮を覚えたから。(60字)

(四)「飽和というのがあの状態のことか、と後に思った」とあるが、どう思ったのか、説明せよ。(2行=60~80字)
〈ポイント〉
・「棚の花は絶えず水あかりをうけて、その美しさはない」。
・「しばらく立っていると、花の匂いがむうっと流れてきた」。
・「誰もいなくて、陽と花と虻と水だけだった。虻の羽音と落花の音がきこえて、ほかに何の音もしなかった」。
・「ぼんやりというか、うっとりというか、父と並んで無言で佇んでいた」。
★藤棚の花の水に落ちる音と虻の羽音以外聞こえず、花の匂いの流れてくる中に父と無言でいた状態が満ち足りた時間だったと思った。(60字)

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