我が家の壁の穴 反抗期は愛情の証し
我が家の壁には、ところどころ穴があいています。
何部屋かはクロスを張り替えたので、隠しおおせていますが、部屋によってはいまだに小さいながらブラックホールの深淵をのぞかせています。
それらはすべて我が家の長男が高校生の頃に制作したものでした。
プラスターボードが脆弱だったのか、あるいは長男の拳が強靭だったのか、そこは不明ですが、当時は制作意図をはかりかねていました。
妻は、ブラックホールの数が増えるたびに、涙をながし、私に訴えました。
「お父さん、私たちの育て方がまちがっていたのかしら? あんなに可愛かった子が、こんなことをするなんて!」
悲嘆にくれる妻をなぐさめるために、私はいいました。
「いやいや、こんなものかわいいもんだ。俺の高校生時代にくらべたら優等生みたいなもんだよ。こんな穴なんて、十年もたてば思い出のモニュメントみたいなものになるよ」
と笑ってみせながら・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・心で泣いていました。
(住宅ローンがまだ20年残ってんだぞ!)
高校の保護者会主催の講演会で話す機会があります。
そんなときに、この我が家の実話と、穴のあいた壁と破損した食器棚の扉の画像をスライドで映します。
「うちだけじゃないって知って、安心しました」
というお母さんもいました。
「前はあんなに可愛くて、仲よく暮らしていたのに、いつのまにか何かにつけて反抗するようになって、憎まれ口ばかりたたくようになるなんて。何が気に入らないんだかわからないんです」
と、泣きそうな顔で話すお母さんもいました。
私は男親なので、女子の反抗期についてはあまり知識がありませんが、男子の反抗期についてはよくわかります。
私自身が強烈な反抗期を過ごし、親とまともに口をきかず、友人のうちを泊まり歩いていたりしましたから。
長男が成人して一緒にお酒を飲むようになってから、たずねたことがあります。
「お前、高校生の頃、うちの壁や食器棚を殴ってあちこちに穴をつくったけど、あの頃の気持ちってどんなだった?」
「うーん、あんまり覚えてないけど、たいしたことじゃなかったと思うよ。なんだかむしゃくしゃして、自分でも自分の気持ちがわからなかったのかも。お父さんもよくがまんしてたなぁ。俺だったら殴ってたわ」
その返答を聞いて、自分の高校生時代のことを思い出しました。
ブンガクにのぼせて小説を読み漁り、ギターを弾いてシャウトしていた頃、自分はもういっぱしの大人になったような気持ちでした。
それでいて何者でもない自分、どう生きていけばいいのかわからず、下手くそな歌を作ってはがなりたてていました。
彼女とデートしながら、ここではないどこかへ行きたくてしょうがなくて、なんだか心の中が爆発しそうでした。
長男の口数が極端に減ったころ、めったに怒らない私が大声をだしたことがありました。
「俺のことなんかほっといてくれ!」
といい放った長男に思わずいいました。
「お前は俺の大事な息子だぞ、ほっとけるわけないだろう!」
そういうと、小学生高学年の頃から涙を見せたことがなかった長男が、無言で泣いていました。
そんなことも、お互いにビールをつぎあいながら話します。
子育ての答え合わせをしているみたいに。
反抗期は、親から自立するための準備だといいます。
親子の絆が強ければ強いほど、断ち切るための反抗は強くなるそうです。
そう考えると、必死に反抗していた息子がいとおしくてたまりません。
反抗されることで、親心もずいぶん鍛えられたように思います。
もしサポートしていただけたら、さらなる精進のためのエネルギーとさせていただきたいと思います!!