お父さんの力だけではお母さんを元気にできないんだ
「お父さんの力だけでは、お母さんを元気にできないから、俺たちが力をあわせて、お母さんの病気を治してあげよう」
そんなメールを2人の息子に送ったのは、もう15年も前のことでした。
都会の学校に進学して、盆や正月にも帰ってこない時期があった息子たちです。
声が聞きたくて電話をしても出てこない。
メールなら返信をくれるかと思って出しても、返信はない。
たまに、妻にだけ送ってくるメールの文面は、「金送れ」だけ。
そんな彼らの力を借りなければ、もう自分では何もできない、と気持ちがかなり消耗していました。
当時は、周囲に同じ境遇の同僚もいなければ、友人もいなかったので、誰に相談することもなく、ひとりで抱えこんでいました。
その後、「ツレがうつになりまして」が出版され、うつの経験者や、うつの家族を持つ人の体験談もつぎつぎに出版されました。
うつ病に関する知識も、一般的に知られるようになりました。
私がいた職場でも、うつで自宅療養する後輩も複数いたり、親しい友人がうつになったりしました。
心が弱ったときには、誰かの助けを求めてもいいんだよと、よく聞きます。
心が弱った人と暮らす家族も、誰かに相談したり、助けを求めてもいいんだと、今では思います。
心のバランスを壊した妻
子どもたちがいなくなってから、妻は心のバランスを壊してしまいました。
うつ病になった妻とどう接すればいいのかわからず、だんだん痩せていく姿をみながら、何もできずにいる自分を責める日々がつづきました。
自分の存在が彼女を救えていないことに、私自身の失望感は大きくなるばかりでした。
そんな重苦しい空気に満ちた家の中で、急に晴れ間がみえたような瞬間がありました。
子どもたちからメールきたときだけ、妻は笑顔になりました。
たまに子どもたちが帰省すると、動くのさえつらそうにしていた妻が、食事をつくりました。
本人がいうには、子どもたちと話すときは、自分でも不思議なくらい霧が晴れたように意識がはっきりしたそうです。
大恋愛の末に結婚して幸せになったつもりが、今では妻の気持ちひとつも変えられないのか、と絶望的になりました。
子どもたちの力を借りる
「君たちの力を貸してほしい」
そんなメールを見て、子どもたちは驚いたのかもしれません。
君たちの大事なお母さんを、お父さんの大事な嫁さんを、助けることもできないんだと心の中では泣きたいくらいでした。
子どもの頃からの強いお父さん、頼りがいのあるお父さんが、そんな弱音を吐くなんて想像もしなかったのではないかと思います。
彼らは、それから「お金送れ」以外のメールもよく送ってくるようになりました。
妻の病状も、私自身の心の中も、誰にも話さずにいましたが、息子たちには話しました。
息子たちの存在が、とても大きな支えになりました。
妻の病気はその後も長くつづいたのですが、メールでいろいろ子どもたちとやりとりしたことは、遠く離れていても気持ちをつないでくれていたと思います。
心が弱ったときには、誰かに話を聞いてもらうことがこんなにエネルギーになるんですね。
もしサポートしていただけたら、さらなる精進のためのエネルギーとさせていただきたいと思います!!