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ナチュラルボーンチキン/金原ひとみ

仕事・動画・肉野菜炒めルーティン
でできている女性主人公。
社内の一風変わった?
ある女性社員の生存確認のため、
自宅へ訪問したことをキッカケに、
ルーティンに「杭」が打たれます。
そこから連なるように、
いくつかの「杭」が打たれ、
本人も思ってもみなかった方向に人生が走り出します。

この本は「オーディオファースト」の作品です。
どういうことかというと、
本は通常「目で読む」ものですが、
なんとこの本は現時点で活字で出版されておらず
Amazon Audibleのみのリリースです。
聴いて読むことを念頭に書かれた
ストリーリーということで、
非常にチャレンジングな本ですね。

はじめはオーディオファーストだなんてことは知らず、
直感でおもしろうそうだなと思って聴き始めました。
正直なところ、これまでオーディオブックと小説は、
個人的には相性が悪いと思っていました。
というのは、小説を読むとき、
無意識のうちに登場人物の声を脳内再生する際
人物の特徴によって使い分けたりするわけで
それがオーディオブックではできないため
いまいちストーリーに入り込めませんでした。

ところが、この本は違います。
なんとそれを見事に実現してくれており、
それでいていやらしくないというか、
やりすぎてない感が丁度良いのです。
「一気読み」ならぬ「一気聴き」してしまいました。

もちろん、ストーリーも面白いです。
年を重ねることのリアル、
中年の恋愛、結婚・子ども、男性観・女性観・・・
年を重ねると、本当に色々と考えてしまい、
前に進むって難しい。
自分のルーティンで生きるのが
一番しっくりきてしまう。
とても共感です。

冒頭で本書を紹介する際、
「杭」と表現しましたが、
これは本書からの引用です。
「出る杭は打たれる」という諺がありますが、
この本の文脈で言うと
「出るように杭を打たれる」となりますかね。

途中で「まさか」さんという方が登場するのですが、
その方の話の聴き方がとても良いです。
意見するでもなく、
優しく受けとめているのが伝わってきます。
書いていて思いましたが、
このような感想が出てくるのも
オーディオブックならではかもしれません。

著者はこの小説を
『中年版「君たちはどう生きるか」』
と表現しています。
多くの辛い経験を経て、
どう生きていけばわからなくなっていた主人公。
そんな彼女が、
少しずつ人生を取り戻していく姿は頼もしく、
聴き終えた後は心が温まりました。

活字アレルギーの方にもお勧めできる一冊です。

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