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令和には貴重? 母のカレーのようにほっとする『キワドい2人-K2-』のわかりやすさ

いや、これ大丈夫なの?

『MIU404』の最後に流れた『キワドい2人-K2-』の予告を見て、おそらく多くの人が同じ心配をしたのではないか。

金曜22時のドラマ枠で続けて刑事が題材のバディもの。カレーライスを食べた後に別のカレーライスが出てくるようなもので、比べるなと言うほうが無理だ。

しかも1杯目に出てきた『MIU404』が実によくできていた。

綾野剛、星野源という高級食材を巧みに料理し、菅田将暉という強烈なスパイスも加える。そこに現在の社会問題という苦味を足すことで味により深みを出す。

さながら一流の欧風カレーで、食べログ4つ星、いや5つ星級の評価も獲得した。

こんなカレーを食べた後じゃ、どんなにおいしくたって2杯目のカレーはつらくなる......。

そんな素人考えは製作陣も乗り越えた上でこの作品を選んだのだろう。『キワドい2人-K2-』は『MIU404』とがらりとアプローチを変えた作品だ。

『MIU404』が深みある欧風カレーなら、お母さんの作る家庭の懐かしいカレーで勝負に出た。

『ミスター味っ子』から『食戟のソーマ』まで、料理漫画の主人公たちは高級料理に対抗するためいつも家庭料理で勝負を挑んだことを思い出す。

ドラマの原作は『ルパンの娘』などで知られる横関大による全8話の連作短編集『K2- 池袋署刑事課神崎・黒木』。小気味良いテンポで進む警察小説だが、ドラマ版ではコミカル要素が非常に強まっている

例えばドラマ冒頭、山田涼介演じる神崎と歩道橋で困っている老婆とのコント的なやり取りが行われる。

ドラマの演出はもちろん、神崎がおぶった老婆に向けて話す「こう見えてね鍛えているんだ」というセリフも、山田自身が筋トレ好きと絡めたメタ的ギャグとも取れる。

さらに神崎、田中圭演じる黒木の上司にあたる末長。原作ではシリアスな上司だが、ドラマ版では八嶋智人が演じ、コミカルかつ典型的なドラマの中間管理職を演じている。

末永の机や周囲には『五等分の花嫁』などアニメのフィギュアやグッズが飾られ、キャラをより強めている。

同じ池袋署刑事課強行犯係のもう一つのバディである江口のりこ演じる木村、ジェシー(SixTONES)コンビは、本編はもちろん「Paravi(パラビ)」で配信中のサイドストーリー「キワドくなりたい男」で軽妙なやり取りを繰り広げる。

奥山かずさ演じる石館も寿退社した若い女性警官というイマドキ珍しいほどのステレオタイプ。強行犯係が最初に現れたシーンで「あっ、シリアスに見なくていいんだ」とわかる。

『MIU404』よりもかつて同じTBSで放送した『ハンチョウ〜神南署安積班〜』『こちら本池上署』と比べる方がしっくりくる。

ドラマのキャッチコピーも「助け合うから、人間だろ。」とヒューマンドラマだと伝えている。

第1話でも犯人の犯行動機となったマキタスポーツ演じる建設会社の社長も根っからの悪人ではなく、人間味のある人物だとわかりやすく描いた。多面的な描き方で悪とは何かを視聴者に突きつけたのが『MIU404』なら、根っからの悪人を描かないで人間の善性を見つめるのが『キワドい2人-K2-』といえる。

もう一つ今作のポイントが「ブロマンス」。ライムスター宇多丸の映画評など、ここ最近よく使われる言葉で聞いたことのある人も多いだろう。「ブラザー」と「ロマンス」を足した造語で、男性同士の強い絆、友情を意味し、同性愛要素の有無は問わない。

古くは映画『真夜中のカーボーイ』のジョーとラッツォ、イギリスのドラマ『SHERLOCK(シャーロック)』のホームズとワトソンや映画『まほろ駅前多田便利軒』の多田と行天、「ドラゴンボール」の悟空とベジータの関係もブロマンスとしても捉えられる。『MIU404』の伊吹と志摩の関係ももちろんブロマンスだ。

『キワドい2人-K2-』がこれまでの作品との違うのは、直前のPR番組から明確にこのドラマの売りの一つは「ブロマンス」だと明言していたことだ。

第1話終盤、カナヅチなのに水槽へ飛び込んだ神崎に対し一度は「バカヤロー」と怒鳴りながら、その姿をみてニヤッとする黒木の姿などはまさにそれだろう。

原作小説では神崎と黒木は同期だが、ドラマ版では異母兄弟に設定を変更し、ブロマンスの「ブラザー」部分をより強めている。この変更で兄弟がバディを組んでいることがバレるとどちらかが飛ばされてしまうため、周囲には関係を知られてはいけないというコメディ要素も加える。

真面目な神崎と、破天荒だが結果は出す黒木。凸凹コンビの間では仕事のやり方をめぐり衝突もあるが、本格的な対立ではなく“痴話ゲンカ”に見せることで萌え要素にも変えている。

例えば第1話、上司にバディになるよう言われ、互いに拒否する場面。

黒木「いらないですよ、優等生は。こんなベビーフェイスに俺の相棒が務まるとは思えません」
神崎「僕だってゴメンです。こんな塩顔ハラスメントと組みたくありません」

甘噛みし合うようなやり取りは女性ファンの心を鷲掴みし、SNSでも話題を呼んだ。

原作小説では神崎、黒木とも別々の行動を取ることが多いが、ドラマ版では神崎と黒木はバディ、そして兄弟でもあるだけに四六時中一緒に行動するように設定を変更。2人の掛け合いがより増えている。

派手なアクションシーンにテンポよく進む物語、わかりやすい笑いとイケメン同士のじゃれ合いーー。

変わる社会常識、新型コロナと毎日考えることを求め続けられる今だからこそ、明るくわかりやすい『キワドい2人-K2-』は母が作ったカレーのように、どこかほっとする時間を与えてくれる。

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