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ラヴクラフトがやって来る①

 ヤァヤァヤァとか言いたくなってしまいました、ごめんなさい。

 今回の話はひょんなことからラヴクラフトのアウトサイダーを翻訳することになった話だったりします。翻訳家をやっている私の妻が大きく関わってくる(というか妻のほうがメインの)話なので少し妻の話から入ります。

 いきなり身内贔屓な感じで申し訳ないんですが、私の妻はなんと言いますか──私なんかにはもったいないくらいの人でして個性的で非常に面白い人なんです。
 小さい頃から絵のほうで全国ポスターコンクールで入選を果たすなど才能を示した一方、高校在学中に半年以上入院するような大事故に遭ったせいで希望していた芸大に行くことを諦めることになって、そこから得意だった英語のほうを頑張ってドイツ文学科に入ったという、ちょっと変わった経歴の持ち主なんですよね。

 この受験英語を死ぬほど頑張った末に(そのせいで今でも特に勉強しなくてもセンター試験の英語が毎年9割以上は正答できるとのこと)、そこから文法の縛りの厳しいドイツ語にハマって、ドイツ各地への留学を繰り返しながら更にゲーテインスティテュートにまで通う、なんていう経路をたどると最後はどうなってしまうのか?

 その答えは「英語のほうでも難解な入り組んだ構文を読み解くのが上手くなってしまった」のだそうです。

 実はこの辺が、今回のラヴクラフト──とりわけ込み入った構文が長々と続く「The Outsider」の翻訳において重要なポイントだったりしたので、最初の話題として取り上げてしまったわけなんですが、ひどい身内贔屓だと不愉快になった方がいらっしゃったらごめんなさい。

 さて。
 ここからが本題です。

 その妻、現在はドイツ語と英語の翻訳家をしつつ、時々請われて家庭教師もやっているんですが、その受け持ちの家庭教師先の生徒の一人がラヴクラフトに興味を持ったらしいんです。  

 H.P.ラヴクラフト……クトゥルフ神話の生みの親と言ったほうが話は早いでしょうか。悪魔教みたいなものを連想するようなド暗い幻想小説群と独特の世界観を後世に遺したアメリカの小説家です。ファンタジー小説を深堀りした人達が、ロード・オブ・ザ・リングやベルガリアード物語などと言ったスタンダードな王道を進んだ狭間に、時々(運悪く?)見つけることになる──変わり種の傍流みたいな感じですかね?(汗)
 もしかしたら今はテーブルトークRPG関連の人達のほうが、このクトゥルフには詳しいと言えるのかもしれません。クトゥルフのTRPGルールブックが出版されてからは、和洋、今昔、様々なシナリオでプレイされるようになってきていますし、Youtubeに行けばその筋のリプレイ動画にも色々と事欠きませんから。

 それでその妻の生徒さん、中学生の女の子の場合なんですが、彼女はFGOの奈須きのこさんからクトゥルフに行き着いたとのこと。これまで時々聞いていた話でも、殺生院キアラさんとかが特に好きとのことでしたから、これはもう当然の帰結なのかもしれません。
 中学生にしてもうラヴクラフトというところに個性的な才能を感じてしまいますよね!

 更に話を聞くと「中でも特にアウトサイダーという作品が読みたい」と既に真っ先に読みたい作品まで決まっているというんです。「ダゴン」や「闇をさまようもの」とかではなく、よりによって「アウトサイダー」に一直線に行ってしまうという辺りに、わかってるなあこの子……というか「今後はこのままそっち方面に行っちゃうんじゃないだろうか」なんていう。
 ──そんな非凡な感性が見え隠れするような。

 もしかして彼女の将来は作家!?

 ただ、そこでちょっと問題が起きたんだそうです。
 興味本位にすぐさま「ラヴクラフト全集」を手にとったのは良いんですが、翻訳された文章のあの古文のような独特の文体についていけない、と言うんですね。私も今回興味を持って改めて読み直してみたんですが「ああ、なるほど」と思わざるを得ませんでした。
 1984年の翻訳であの文体というのは……何というか、原語版が出版された年代を考慮したとか、不気味な雰囲気を醸し出そうとして工夫した結果なんでしょうかね? うーん。その他に気になることとしては、内容についても当時の舶来ファンタジーの潮流通りにかなりの意訳が入っている感じがします。

「これって原語が英語ってことを踏まえた場合、この古文的な文体から間接的に読み解く形になるより、英語を直接現代語訳に翻訳してあげたほうが作者本来の意図に迫れるんじゃないのかな?」

 そう妻と二人で話し合いました。
 あくまで教育的な観点で──はい。

 ……ごめんなさい、ちょっと嘘をついてしまいましたね(汗)

 正直に告白すると、そこに私達の「興味」という部分が関与していたことは否定できません。
 これは面白そうじゃないか、という。

 そうなんです。
 この「The Outsider」を私達で日本語に翻訳してみよう。
 そう考えるとワクワクしてきてしまったんですよ。

 このアウトサイダーを翻訳していく過程で、感じたことや、発見したことなどがなかなかに興味深かったため、これを文章にして残しておこうかなと思ったのが今回の趣旨だったりします。

 そんなわけで。
 次回からいよいよ実際にこのアウトサイダーの内容に入っていこうと思います。

 奇書という噂に違わず原文はかなり曲者のようですよ、これ?
 

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