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ラヴクラフトがやって来る⑤

 翻訳者の妻と私が興味に駆られて、ラヴクラフトの短編「The Outsider」を翻訳し始めた話の5回目です。
 昨日からは、いよいよ本文部分の翻訳に入ったわけなのですが……ここで大きな発見がありました。
 なので今日は一旦ここで話が横道に逸れることになるんですが。

 ──その前に、少し著作権について触れておこうと思います。

 昨日、原文の英語文を引用した記事を書いてから「原文をそのまま引用して著作権は大丈夫なのか?」と言うご指摘を頂いたのですが、英語の原文に関しては青空文庫でも無料公開されているように、作者の死後50年が経過にしていることで著作権は消失しています。(翻訳され書籍として販売されている訳文については著作権が存在します)
 説明が足りずご心配をお掛けしたようですが、その辺りは大丈夫だと思いますのでご安心下さい。

 ちなみに私達は、英語サイトの「The H.P. Lovecraft Archive」から原文を入手して翻訳しています。

https://www.hplovecraft.com

ラヴクラフトアーカイブ1


 さて。
 一度始めた以上、何があっても最後まで走り切ろうと腹を括っていた私でしたが、実を言うと今日になって新しい発見があったわけなんです。
 偶然ウェブ上でこの「アウトサイダー」を解説しているサイトを見つけたんですよね。

【ラブクラフト】第4回 アウトサイダー(The Outsider)の客観的世界観

http://www.manecco.net/2019/05/07/【ラブクラフト】第4回-アウトサイダーthe-outsiderの客観/

アウトサイダー解説記事1

 またこの記事の作者が翻訳した「ラヴクラフト短編集」がアマゾンで売られているとのことでした。

 興味を惹かれて、早速購入して読んでみることに。

 ふむふむ。
 中身は明快な現代語訳、期待通りです。
 意訳による単純化や置き換えなどは多少見られるものの、非常に世界観をイメージしやすく読みやすい。
 小品を気楽に読むという意味では、面白い翻訳という印象ですね。

 話の筋と結末をはっきりと理解できる。
 そしてストーリーをシンプルに楽しむことができる上質な和訳と言えるんじゃないでしょうか?
 この話は短編というか、ある意味で星新一を思わせるような言わばショートショートなわけですから、こういう読んだ時のスピード感というのは作品として重要な気がします。

 読後感も非常に良く納得した感覚もあって。
 私自身、もし原文を読んだことがなければ「もう自分で翻訳する必要なんて無いんじゃないのかな?」と、ふらっと考えてしまっただろうと思うおのですが……。


 ただ致し方ないこととは言え、わかり易くするために細かいニュアンスをバッサリ行ってるところもやっぱりあるんですよね。

 ──代表的なところをひとつだけ挙げると「a window embrasure」が単純に「窓」と訳されているところとかでしょうか。

 この「window embrasure」というのは、欧州の城でいうところの「銃眼」(そこから監視したり銃で狙ったりするために石壁に開いている穴)にあたるもの。今回の話ではそれ故に足場の対象になっているわけで、正確には窓とは違うものなんです。
 とは言うものの、これを正確に翻訳しようとすると、それだけ複雑になり、訳注も付き、読みにくくなります。これはシンプルに意味を通るようにした上で、ストーリーを読みやすくするための「意訳」なわけです。
 本来、翻訳家というのはこういうオーガナイズ(置き換え)が上手い人が「良い翻訳者」ということになるんでしょう。(つまりこの翻訳者さんは意味がわかりやすく読みやすい良い翻訳者ということになります)

 ただ私達夫婦の場合は、その辺りの細かいニュアンスを知りたくて原語を紐解くそういうタイプの人間なので、どうしてもそういう細かな違いが気になってしまいます。
 せっかくの機会ですから個人的にはやっぱり最後まで自分達でも翻訳して色々と調べてみようかな、と思っています。

 そういう細かいところまで掘り下げたことによる「見返り」は奥深い作品ほど大きなものになると思うのです。


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