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ラヴクラフトがやって来る②

 そんな訳で。

 ラヴクラフトのアウトサイダーを自分達で翻訳することになった私達夫婦ですが、他に良い訳が無いかどうか調べなかったわけではありません。
(念のために申し添えておきますが、これは何もラブクラフト全集の当該箇所を翻訳していらっしゃる大瀧先生が「悪い訳」である言っているわけではありません。文学的には素晴らしい翻訳だと私達も思います。ですが、今回はラヴクラフト自身に興味を持った中学生に「作者の意図をまっすぐに伝える」という意味で、もっとそれに適した現代語訳は無いだろうかと考えたということです)

 例えば同じラヴクラフトの作品でも「ダゴン」などは、青空文庫で大堀竜太郎という方が素晴らしい現代語訳を公開していらっしゃいます。

青空文庫ダゴン1

青空文庫 ラヴクラフト『ダゴン』https://www.aozora.gr.jp/cards/001699/files/57443_58144.html

 こういう優れた現代語訳が有料であっても無料であっても既にどこかにあれば、私達がこうしてしゃしゃり出てくる必要はなかったんですが、趣味に合ったクラシック音楽の演奏と同じでそういうものを見つけ出して来るのはなかなかに難しい。
 幸いと言いますか、前のエントリでも書いたように妻が難解な構文も苦にしない英語力を持っている翻訳家であること。
 更に言うと私達夫婦にも多少の実績があり、2012年から17年までのおそよ5年ほどの期間、外国の大手金融サイトでテクニカル翻訳の和訳を一次翻訳を妻が担当して私が日本語を添削するという形でこなし続け好評だったこと。
 などから判断して、挑戦してみたら面白いんじゃないかという話になったということなのです。

 さて。
 まずは一次翻訳の手間を省くためにも一度機械翻訳にかけてみることにします。
 有名なGoogle翻訳はアルゴリズムの進歩で最近著しく進歩を遂げたと言えますが、それ以上に素晴らしい出来だと現在評判なのがDeepL翻訳です。
 Google翻訳は英語から日本語以外の他の言語に翻訳する時にはなかなかに精度が高いのですが、外国語ほどシステマティックな言語体系ではないファジーな日本語が混じってくると、精密機械が少しのズレからバラバラになってしまうように次第に狂ってきてしまいます。それに対してDeepL翻訳はGoogleに比べて特に日本語の精度が素晴らしいんです。ちょっとした日常会話レベルの場合はもう何も考えずに使えてしまうくらいの感じで、初めて発見した時には「ああ、もう日本語に関しても翻訳は機械翻訳って時代がすぐ来てしまうかもねぇ」と二人で顔を見合わせて複雑な気持ちになったものです(苦笑)

 そのDeepL翻訳さんにまずはざざっと翻訳して頂きました。
 せーのー。どん!

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 ぱっと見ではまあまあの出来に見えました。
 これならこれをベースにして解釈がおかしいところを少し修正すれば──。

 なんて私なんかには反射的にそう思えてしまったくらいなんですが(もしそうであったらこの記事を書くことはなかったでしょう)長文読解マスターの妻の目は誤魔化せませんでした。

「あれ? あちこち訳抜けだらけだよ、これ?」
「なんですと!?」

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 妻が示した箇所に私もチェックを入れてみます。

 あらー。
 どうやらDeepLさんってば、複雑で意味が追えなくなった難解な文章については黙ったまま訳さないで飛ばしてしまうという悪癖の持ち主だったみたいですね(-_-;)
(これではまるで日本人のフリをして日本語訳の仕事を格安のレートで強奪しては、あちこちで顰蹙を買っている一部の質の低い中国人訳者みたいじゃないですか(ため息))

 はぁ~~これはどうやらこの先も楽はできそうにありませんねぇ。
 諦めて最初から一文一文細かくチェックしていくとしますか。
 一旦はそう思った私でしたが──。

「そんな甘いものじゃないと思うよ~これ」

 そう横から同じモニターを覗き込んでいる妻の目が不気味に光るのを見て見ないフリをすることはできませんでした。このお方、難解で変態的な文章に出会えば出会うほど、どうしてかノリノリになって目が輝き出してしまいますからねー。
 ついに目覚めてしまいますか、封印の獣が(汗)

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