見出し画像

行き詰まった時

お盆休みは台風が来ていたこともあり、とことん家に閉じこもろうと決めていた。
実家に戻るついでに書店に寄り、辻村深月さんの新刊となんとなく目を引いた文庫本を数冊購入。

実家では予定通り高校野球を観ながら、合間で読書しながら過ごした。
読んだ本は青山美智子さんの「お探し物は図書室まで」

なりゆきで就いた婦人服販売の仕事にやりがいを持てず先が見えないことに不安を感じる21歳女性。
"いつか"アンティークの店を開きたいという夢がありながらも、今の仕事や現実を考えて一歩踏み出せない35歳男性。
出産育児を機にやりがいを持っていた雑誌編集の仕事から異動を命じられ、育児にも悩み、やりたいことを思い通りにできず憤る40歳女性。
小さい頃から夢だったイラストの仕事に就けず、ニートになり、「居場所」を欲する30歳男性。
定年退職し、社会から切り離されたと思い、自分が仕事で積み重ねてきたことすら空虚だったのではないかと感じ始め、残りの人生をどう過ごせばいいのか虚しさを抱えながら考える65歳男性。

そんな人生に行き詰まった5人が、図書室の司書さんからオススメされた本を足掛かりに道を開いていく物語。

シチュエーションは様々だが、全ての物語にハッとさせられることが書いてある。おそらく読むたびにその"ハッとさせられる"箇所も変わっていくだろう。
共通しているのは、「今のままでいいのだろうか」「これからもこのままなのか」という想いを抱えた人が行動をとることで悩みを払拭していく点。

その"行動"というのは、なにか特別なことを力んでするのではなく、例えばエクセルを身につけようとしたり、自分とは異なるキャリアの人と話したり、衝動に駆られて絵を描いたり、趣味を作ろうと囲碁教室に通おうとしたりとあくまでも平凡なことだ。
どれも大きなことを成し遂げようとして始めた行動ではなくとも、彼らが道を切り開く起点になっている。

私自身、特に20代の頃この本の主人公達と同様に「このままでいいのか」という思いを抱えて悩むことが多かった。

何度も転職を考えたし、実際に社員の前で退職を宣言したこともある。
結局辞める1週間前に撤回し、今も同じ会社で勤めている。
つい友達と比べて「自分は輝けていない」と悩んだり、「やりたいことが見つからないことは悪だ」と思い込んだりして、自分の良さや今やっている仕事の価値が見えにくくなってしまうことがあった。
だけどそういう気持ちになっている時に少し目線を外すことで気付くことはたくさんある。

少し目線を外すというのは、5人のように少しだけルーティンから外れて動いてみること。
当時の私の場合は身近な人に話してみた。話すことで何か助言をもらうというよりは、自分の思考を整理できた。
この本の場合は"司書さんが本を紹介してくれること"がキーになっているようにも思えるが、司書さんに出会ったから状況が好転したのではなく、彼らが何かしら動いたことで司書さんと出会い、自分の力で行き詰まった状況を解消したのだ。

動いてみることで、何かしら人との繋がりが出てくる。
人と繋がるというのは、自分の思考と他人の思考が交わること。
思考が交わることで、自分を客観的に見つめ直せる。
見つめ直した結果「このままの自分がいい」という考えになることも当然ある。
"人との繋がり"というと私のようなコミュニケーションが苦手な人間にはハードルが高く感じてしまうが、難しく考えず、例えば本を読むこと一つとってもそこには著者がいる。
それだって"人と思考が交わること"になる。
極端に言えば、今これを読んでいる貴方と私の思考も繋がっていると言える。
自分でnoteにアクセスしないとここには辿りつかないし、手に取らないと本は読めない。
要は自分主体の小さな行動の積み重ね。

この本を読んで、そう感じさせられた部分を一部抜粋すると

どんな本もそうだけど、書物そのものに力があるというよりは、あなたがそういう読み方をしたっていう、そこに価値があるんだよ

175頁 三章

同じ本でも読む時の自分の状態によって感じることは変わる。
それはその度に自分が何を感じ取りたいかが変わるから。

過去に誰かとした会話等で、相手はおそらく覚えていないような一言が心に残っていて、元気をもらえることがある。
それはその言葉の力だけではなく、それ以上にその言葉が自分の大切にしたい価値観だと思っているから心に残るんだと思う。
誰かが伝えたいことや本のメインテーマよりも自分がそこから何を感じ取りたいか、そこに価値がある。

何かを変えようとするためには、大きなエネルギーを使って特別なことをしようとするのではなく、まず人とのつながりの中で自分を見つめなおす。
書店に行って本を買う。海辺で本を読む。友達と会って話す。バーに行って店員さんと話す。
そんなことでいい。
それだけで自分を見つめなおせる。
見つめなおした時点で、行動は始まっている。
思い悩み、何か行動した時点で変化は始まり、その変化が行き詰まりを解消する。

青山美智子さんの「お探し物は図書室まで」
是非読んで欲しい一冊でした。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?