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最大公約数と僕「うどん攻防戦」

あらすじ⬇︎

インターンの面接のため少し早めに家を出た僕は、高校時代にほとんど話したことがなかった高橋と偶然電車で再会する。すっかり垢抜けていた彼女は電車を降りたタイミングで僕に想像すらしていない言葉を発しようとしていた。

⬇︎前回分


「なあ、うどん好き?

電車を降りるやいなや、高橋は真剣と笑顔が6:4の割合で入り混じった表情を浮かべながら僕に問いかける。

「え、好きやで。」この質問を受けた時点で、この後「うどん一緒に食べへん?」と高橋から聞かれる展開が予想される。

ついさっきどん兵衛のうどんを食べていたこともあり、今うどんを食べたい気分では全くなかったものの、なぜかうどんが好きだと答えていた。

あれこれ考えているうちに、高橋はさらに僕の予想を上回る(この場合は下回ると言った方がいいのかもしれないが)反応を示す。

「そっか」

え、高橋は僕がうどんが好きかどうかという事実を単純に確認したかったのか?

いや、電車を降りたタイミングで、うどんが好きかという事実を確認するためだけに「うどん好き?」って普通聞かないよな。うん、僕なら絶対に聞かないはずだ。

となると、高橋の真意は何なのだろう。

この瞬間からだろうか。僕たちの意思決定の主導権は彼女が握っているような気がした。

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「何で?」真心100%で僕は高橋に質問する。

「何となくかなぁ」高橋は自分で物事を前に進めている感が出るのを嫌うタイプの人間なのかもしれない。

改札口が見えてきたタイミングで、操り人形のごとく僕は彼女にまたもやこう質問する。

「高橋はうどん好きなん?」

「好きやで!」即答。

「それじゃせっかく久しぶりに会ったし、どっかこのあたりのうどん屋さんで一緒に食べへん?」

「え、めっちゃ食べたい。この近くに行きたいうどん屋さんがあるんよ!」まてまて。元から行きたいうどん屋さん決まってたんかい。

それなら「何となくかなぁ」なんて濁さずに、素直に「うどん一緒に食べへん?」と聞けば良かったんじゃないのか。

そんな僕の意見はもちろん心の中に閉まったまま、「おお、そうなん、それじゃそこ行こか」と答える。

「楽しみ!」

と今日一番の笑顔を見せた高橋のこの一言で僕は、これまでチャージされていた彼女への違和感がうっすらと影を潜める。

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すれ違う人がほとんどスーツ姿のビシネスマンしか見かけない、ビジネス街にこのうどん屋は位置していた。

「世界一暇なうどん屋さん」という、いかにも閑古鳥が泣いていそうな店名とは裏腹に、店前に8人ほどの行列ができている。

「世界一暇なうどん屋さん」とは謙虚しているかのように見せかけて、これほどまでに繁盛していると、自慢をしているかのように感じられる。

「ここのお店めっちゃ来てみたかってん! あ、てかりんりんは今日何で淀屋橋来たん?」

「インターンの面接やで」僕はどこか少し誇らしげに答える。

「え、もうインターン始めるん!私全然就活について何も始めてないわ…流石にもうそろそろ始めるべきよなぁ」

「どうなんやろ。自分も今日が初めての面接やから、まだ正直何もわからんのよな。どこの業界とか考えてる?」

「んー業界ははっきり決まってるわけではないんやけど、なんか大手ではなくて、若いうちはベンチャーで働きたいなぁってぼんやり考えてはいるよ」

「え、受験頑張って同志社に入学できたのに、大企業志望しやんの?」

「今のところ。だって大企業は言ってもよほど運よくない限り、はじめから裁量権持って働くことってできないやん。だから出来るだけ裁量の大きい仕事できる可能性の高いベンチャーで考えてる」と高橋は言った。

大阪の地方国公立に合格した僕は、周りがほとんど大企業志望というだけあって、ベンチャーという考えはハナから捨てていた。

何となく誰もが知っている企業に進めば、自分を人生勝ち組のように見せられる気がした。ただこのような考え方で人生の大事な岐路を進めていいのだろうか。それならベンチャーの方が…※□◇#△!

僕の本音がこのように一瞬心の蓋を突き破り、顔を出してきたものの、すぐに僕の決意によって、蓋を閉ざすことにした。

「高橋めっちゃしっかり考えてるやん、自分は全然そこまで考えてないわ。将来マジでどうしようか悩むよな」

待ち時間、食事中はほとんどこのように至って真面目な先の見えない将来の話、まもなく始まる就活の話をして終えた。

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時計を見ると、もう面接の15分前に差しかかろうとしていた。

「あ、もうそろそろ面接やから、ちょっと急がなあかんわ」

「そかそか、面接頑張ってね!」

「ありがと、お互い就活に向けて頑張ろうね」

感動的な再会?もこれにて閉幕。スマホを開き、事前にGoogleマップでピンを立てておいた面接場所を探す。

「そや、りんりんの面接の結果どうやったか聞きたいから、インスタ教えてほしいな!」LINEではなく、インスタというあたりにちょっとした違和感がある。

ただこの頃は若者のLINE離れが謳われているように、彼女もまたその若者の一人なのだろう。若者の僕が言えたことではないが。

「そうやな、交換しよ!」

saraという彼女の名前が入ったIDを打ち込み、彼女のアカウントをフォローする。

鍵アカということもあり、彼女が普段どのような投稿をしているのかはまだわからない。

面接時間が残り10分ほどまで迫っていたこともあり、彼女からフォローバックされたか確認することのないままお別れする。

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「面接場所まで間に合うのか、かなりギリギリやな…」

焦りから来る冷や汗なのか、競歩並みの速度で5分ほど歩いたがゆえの汗なのかわからない、少量の水が背中に滴る。

面接場所である8階立てのオフィスビルを発見し、建物に1つしかないエレベーターに乗り込む。

現在の時間をスマホで見てみると、ギリギリ2分前に目的地に到着できたようだ。

ジョギング並みのウォーキングで加速した拍動に、緊張が拍車をかけたからだろうか。左胸に手を当てると心臓がもがき苦しんでいる。

その時インスタの通知が画面に顔を出す。

「りんりん、面接ファイト!」

タイミングの良すぎる彼女からのダイレクトメールだった。

第3話⬇︎










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