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東京ドームも雨の中

「昔はさ、梅雨の時期は雨でナイター中止だったじゃん」
「うん」
「今はほとんどドーム球場だから関係ないよね」
「そうだね」
「雨降ると嫌だなぁ、って思うようになったのいつ頃から?」
「いきなりだね、相変わらず」
「いつ頃から雨降ると『あ〜あ』って思うようになった?」
「あんまり嫌じゃないけど、おまえ、嫌なの?」
「怠いじゃん」
「そうかな?」
「怠くないの?」
「電車通学の頃は嫌だったけど、今は別に」
「そうなの?」
「そんな、雨だからって、あんまり困らない。ナイターも中止にならないし」
「そうか…」
「洗濯物も外に干さなくなって久しいし。むしろ、花粉つかなくておまえも楽だろう?」
「そこはね。でもさ」
「おまえは嫌なの?」
「嫌か、嫌じゃないかで言ったら嫌だ」
「ふうん」

「しかし、よく降るよな」
「うん」
「何拗ねてるんだよ。雨嫌だ、って言ってほしかった?」
「そういうんじゃない」
「雨自体は嫌いじゃないけど、天気がいつまでも悪いのは好きじゃない」
「そう?」
「野菜、高くなるし」
「おまえってさぁ、すんごくリアルだよね。リアル重視だよね」
「現実の中で生きているんだから、リアルでいいんじゃないの?」
「そうだけどさ」
「雰囲気に流されるからね。おまえは」
「何?上から目線」
「いやいや、羨ましいってことだよ」
「何だよ、それ」
「珈琲淹れるけど飲む?」
「飲む」

「ミルク入れる?」
「うん」
「俺さ、多分、こういう鉄筋コンクリートの建物に住んでいるから、雨気にならないんだよ。一戸建てとかアパートとかだったら雨音気になって眠れない。滝の音とか水の流れる音とかに癒されないタイプ」
「そうなの?」
「子どものころからそういう音がしない環境だったからね。家の中で雨風の音聞いているより、外で台風の中でびしょ濡れになっている方がまだいい。自分が気がつかないでいるうちに世界がどうにかなっていたら怖いじゃないか」
「リアリストの言葉とは思えない」
「そうかな?」

「今日の巨人広島はドーム?」
「ドーム」
「よかったな、中止にならなくて」
「今日の晩飯何?」
「昨日から仕込んでいたビーフシチュー」
「仕込んでた?気がつかなかった」
「雨降って冷えるから、あったかいのがいいだろ?」
「ビーフシチュー大好き。雨もたまにはいいことするなぁ」
「温めてくる。テーブル、片付けてて」

東京ドームも雨の中。