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不在証明

「不在証明なのにアリバイとはこれ如何に!」
「どういうこと?」
「『いない』のに『在り』だぜ?」
「だって英語だもん。アリバイ」
「マジ?」
「まじ。こう書くらしい」

alibi 

「ラテン語に由来しているってWikipediaにあった」
「調べたんだ」
「調べたというか、たまたま読んだ」
「たまたま読んでスペル覚えられるんだ」
「だってまんまだし」
「そうか?」
「うん」

alius ibī

「aliusが『他の』で ibīが『場所に』。他の場所にいる・いたになる。不在証明は正しくは現場不在証明」
「そういうところまで覚えてるんだ」
「だってさ、ふうんとか納得、感心すると記憶に残らない?」
「自分から調べようとしたのは覚えているけど、たまたま目についたのって覚えてない」
「えー。じゃあ、警察に目撃証言求められてもダメじゃん」
「うん。きっと役立たずだわ。おまえだったらきちんと証言できる」
「うーん。どうだろう?」
「どうだろうって?」
「だって、関心がなくぼんやりと見ているだけだったら覚えてないよ。横断歩道ですれ違った人とかコンビニで自分の前に会計していた人のこととか覚えてる?」
「いや」
「何か印象に残るようなことが付随してなきゃ覚えてないじゃん」
「印象に残ること?」
「例えば殺人事件の瞬間を目撃したなら覚えているかもしれないけれど、現場から立ち去った人なんて、その時は全然気にも留めない。後になって死体を発見して、『さっきの人が犯人かも?』と思っても思い出せるものなんてほとんどない」
「そうだね」
「アリバイだってそうだよ。『昨夜9時頃何してました?』いつもと変わらず過ごしていたなら答えられるけれども、逆に飲み会とかイレギュラーなことをしてたら、正しい時間とか逆に言えない。ましてや何日か前とか時間と組み合わせて覚えているのってなかなかなくない?」
「そう言われるとそうかも」
「だから、テレビドラマできちんとアリバイが言えるやつほど怪しいと思って見てるんだけど、時々いるんだよ、変に記憶のいい奴。どうでもいいことまで覚えているの」
「おまえみたいに?」
「え?」
「なんでもない」
「なんだよ?」
「いや、単なる相槌」
「ふうん…で、何だっけ?」
「テレビドラマの中の記憶いい奴」
「そうそう。でもさ、俺、おまえと一緒にいた日のことはきちんと覚えているから。いつだっておまえのアリバイを証明する証人になれる自信はある。だから心置きなく取調べ受けてくれよ」
「いやいや。なんか違う」
「違う?」
「うん。そもそも捕まらないし」
「捕まるようなミスしない?」
「いやいや。そうじゃない。事件も起こさないから」
「当たり前だろう?俺も起こさない」
「そ、そうだよ」
「うん。じゃあいいじゃん」
「まぁな。所謂Q.E.D.ってとこ?証明終わり」
「証明終わりはQ.E.D.だけどなんか違う。何の証明をしたんだ?」
「まぁ、いいからいいから・・・」
「Q.E.D.もラテン語からきてるんだよ」
「ホント?それもWikipedia?」
「ううん。それは本。探偵小説」

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