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#8 CanSan製作記

大学の授業の一環でこの半年(2023/4~10)、CanSatの製作に取り組んでいました.アメリカのブラックロック砂漠で開催された国際大会「ARLISS」に出場してきました.

CanSatプロジェクトで得た学びについて備忘録的な意味を込めて書きました.長くなったので暇な人だけお読みください。(CanSat経験者以外には理解しづらい内容になったかもしれないです)
CanSatのミッション内容やプロダクトについてはUNISECの技術報告書や、東工大のニュース記事に公開されているのであまり触れません。

(公開後リンク載せます)

CanSatとは?

缶サット(CanSat)= 缶(Can)+人工衛星(Satellite)の造語.

宇宙機を模した空き缶サイズの機械(=CanSat)を作り,予め用意されたモデルロケットに載せて上空4000mまで打ち上げます.その後,パラシュートを開いて地上に落ちたCanSat機体がミッションを行います.
(大会によって少し違うけどだいたいこんな感じです)

缶サイズのクラスもありますが,自分たちはオープンクラスでの参加だったので,直径146㎜・円筒軸方向240㎜・重量1050gと缶よりは大きめです.このレギュレーションが一番の特徴だと思います.

特定のポイントへの0mゴールを目指すカムバック部門とその他(ミッション部門)という大きく2つに別れています.ゴールに向かいながら途中でミッションを行うチームもありました.

この半年で何人かに「CanSatって何?」という質問をされましたが、未だにちゃんと答えられた試しがありません.
少しでも理解しやすいように「ロケットを打ち上げて~」とか「宇宙機を模した~」みたいなことから話を始めてしまい,ものすごい壮大な話だと勘違いされたあと「いやそこまですごいものじゃないんだけど,,,」という会話のパターンが多かったです.自分の活動を正確に伝えるのは難しい,,.



製作スケジュール

ガントチャートを見て思い出しながら書きました.

  • 4~5月:ミッション検討

  • 6月上旬:製作開始

  • 6月下旬:ミッションレビュー提出

  • 7月上旬:一次審査書提出

  • 8月上旬:レギュレーション試験・ミッション試験・本審査書提出

  • 9月上旬~:大会(ARLISS)開始

開発なので当然のように(?)スケジュールは後ろにずれ込みました.試験を泊まり込みで終わらせ,本審査書を提出した後も渡米ギリギリまで製作して再試験という感じでした.宿泊中のホテルで徹夜で実験を繰り返し,打ち上げ当日は移動中の早朝,揺れる車内で製作をしていました。



宇宙ミッションの考案

東工大は毎年、ミッション部門に挑戦する文化(?)があるらしく,初めに将来想定される宇宙ミッションを考案します。その後、宇宙ミッションをCanSatスケールに落とし込みます。

衛星開発の登竜門的な役割なのでミッションは厳しく評価され、考える期間はかなり長めです.(主に衛星開発をする研究室の学生が参加します。自分の研究は宇宙用材料の接合なので珍しい方です)
カムバックコンペだと、一般にそこまで複雑なミッションを設定しないので、割と初期から製作に入るようです.

宇宙ミッションの考案は、研究計画を立て、背景調査をする作業と似ています。まだ言語化が難しいですが、研究と開発の違いのようなものが少しわかったような気がします。(開発を意識した研究というのを目指すべきなのか?)言語化できたらいつかnoteに書きたいテーマです.

ミッションの評価基準

以下のような評価基準で、実際に衛星開発を行っている先生方からレビューを頂きながらミッションを作っていきました。

  • 新規性はあるのか?

  • 将来、宇宙ミッションとして採用される可能性はあるのか?

  • コストや性能など、類似手法と比較してミッションに価値があるのか?

  • 技術的に実現可能であるか?スケールアップが可能か?

  • CanSatとしてレギュレーションに違反しないか?製作の見通しがあるか?

いくつかグループに分かれてミッションを提案し、互いに評価し合う形式で進めました。一つに絞る過程で、定量的な評価項目の作成やそれらの重要度に合わせた重みづけも行いました。数あるロボコンとは違い,新規性やミッションの価値を評価するため研究でのニーズを測る能力も鍛えられます.

先人たちが既にたくさんの宇宙ミッションを考えています.新規性の高いミッションは、現状のニーズがない(orニーズが測れない)から構想が表に出ていないことが多く,将来実現される可能性が低くなります。しかし、実現の可能性が高いミッションであれば、誰かが類似したミッションを考えているため新規性が低くなります。このように相反する評価がいくつかありミッションの決定は大変な作業でした。


ミッションの決定

ToByUse(どんな目的のために、どのような手段で、どのような技術を利用するのか?)の考えを元にミッションを作りました。

0から新しくミッションを考えるのは至難の業です。なので,考えられている宇宙ミッションのToByUseのどこか一つを変えるという方向で考えました。
To : 新たな目的を見つけるためには幅広い知識と先見の明が必要
Use : 新しい技術を開発するのは時間と資金コスト的に厳しい(例えば最軽量最大効率のバッテリーを使います!といっても一朝一夕で開発できるわけがない)
ということで自分はByを変えるという考えで模索しました.

チームで議論を重ねテーマを「月面クレータでの水輸送のためのパイプライン自動敷設ミッション」に決定しました。詳しくはARLISSの技術報告書をご覧ください。締め切りに追われながらみんなで頑張って書きました。



CanSatミッションの考案

ミッションシーケンスの決定

製作に取り組む前に想定する宇宙ミッションをCanSatミッションに落とし込む必要があります。宇宙ミッションの全てをCanSatで実証することは、レギュレーション・技術・コスト・時間などの制約上難しいので、実証と言えるギリギリのレベルまでスケールを落とします。


サクセスクライテリアの設定

大まかなミッションシーケンス(動作の順番)が決まったら、ミッションを評価するための評価表(サクセスクライテリア)を作ります。
成功の基準を三段階に分け、ミニマムサクセス < フルサクセス < エクストラサクセスを各機構ごと(目的ごとの機能)に定めます。

時系列的にミニマムをクリアしたのちフル、エクストラと続きます。そのためエクストラを達成したときには自動的にミニマムもフルも達成されている必要があります。加えて技術難易度もミニ、フル、エクストラであることが望ましいです。機能ごとに分けるのか、シーケンスごとに区切るのかなど自由度が高い分非常に難しい作業でした。

製作をしていく過程で技術的に実現が難しいと判断し(大抵サイズ制限に阻まれる)何回か、ミッションシーケンスやサクセスクライテリアの変更を行いました。具体例を挙げると成功確率が低いシーケンスの順序を入れ替え最後に入れたことです。想定する宇宙ミッションのシーケンスに合わせるのではなく,要素ごとの実証ができることを最優先に考えました.
大きな変更を行うことは多々ありましたが、必ず最初に立てたミッションとサクセスクライテリアに立ち返り、要件を満たすことを一番に検討します。それでも要件を満たせないときは変更をします。製作と同時並行で変更しながら進めました。

ミッションを自分たちで作り、自分たちで評価基準も作る。ミッションを簡単にして、基準を下げれば大成功ができます。製作中は自分たちのプライドや美学との精神的な戦いもありました。(何度もチームで揉めました)



CanSatの製作

大まかなミッションシーケンスが出来上がった段階で必要な機能をリスト化し実現のための手段を探ります。電装班と構造班に分かれ各々作業を勧めます。

自分は構造系、主にミッションの核となる機構の設計を担当しました。テーマごとに気付いたこと、得た学びをまとめました。

(1+a)ⁿ

製作→試験→課題発見→改善のサイクルの重要性はやはり感じました。俗にいうPDCAサイクルです.以前とある講演で東大の中須賀先生が宇宙開発は(1+a)ⁿのnを増やすことが大事だと話されていました。(a:技術向上度 n:試行回数)
サイクルの中で特に重要だと感じたものについて深堀ります。

製作環境:特に初心者は最初の一歩が一番大きいです。部品の買い方、機械の使い方はチームで共有もしくは経験者がサポートするとスムーズに自走できます。大学の授業ということもあり、機械はある程度揃ってたのは良かったです。

課題の発見力:一番大事。課題が明確だとそれだけで試行回数を減らすことができます。「自分が目指すもの」と「現状できていないこと」を分け、なぜ目的が達成できないのかを探ります.人の目が多ければ多いだけ良いと思います。これも長年CanSatに関わっている先生方のフィードバックがあるので恵まれた環境でした。
課題を発見して、改善策を考えて、製作している段階が一番ワクワクしました。次は上手くゆくだろう,自分のアイデアが確かめられるのでアドレナリン出まくりです。その後、動作テストで失敗ということを何十回と繰り返しましたが、、、。

試験環境:最終的に作った機構は動作させます。なので電装班と連携をとって動作環境を早急に整える必要があります。動く想定で作って、実際の環境に近づくにつれて問題点が明らかになったことも多々あったので、できるだけ早く簡易的な試験環境を構築することが必要です。加えて,CanSatは非常に小さいので各コンポーネント担当者とのコミュニケーションも大事です.


設計要件

そもそもミッションから自分たちで決めていたので、設計するにあたりどこから制約をつけていくかに悩みました。自由度が高いのは良いですが、あまりに自由だとどこから設計するのかが難しいです。

時間とお金が限られていて,参考になる類似開発がないので,最初の設計指針が今後に大きく作用します.初めは一つの手法に固執することなく,様々な可能性を探ることに時間を使いました.4輪駆動やキャタピラ,分離・合体システム,可動式のスタビライザーなどいろいろなことを考えて試しました.


設計変更

改善する時は複数の要素を同時に考慮する必要があります.他のコンポーネントとの兼ね合い,物理的干渉,製造コスト,ミッションとの適合,ミッションシーケンスを満たす動作、レギュレーションの制約などです.
特にCanSatはサイズの制限が厳しく,特に最小化・軽量化には苦労しました。一つのコンポーネントの小さな設計変更で他のいくつかの部品に干渉してサイズをオーバーしてしまうことが何度もありました.

動作させるために細かい変更を行っていると,ふと気が付いた時に、レギュレーションやサクセスクライテリアを満たせなくなっていることがありました.技術的なミクロな視点とプロジェクト全体としてのマクロな視点を行き来する必要があります.並行して取り組んでいた研究やプロダクト開発でも,たびたび研究背景や設計指針に戻るので良い思考の癖が身についたように思います.

複数の要件が絡み合う設計では、どこが変数でどこが固定値なのか?変数の範囲は?変数同士の結びつきは?固定の値は何に依存していてどうにか変えることは可能なのか?などを明確にすると良いことに気が付きました.
(日常生活でも同じで,自分の力が及ばないところは考えない,自分の力で変えられるところのみ注力する)

設計変更の流れを理解していない人から無理な要求を出されることも往々にしてあります.(自分がしてしまうこともあります)
引継ぎや連携して設計を進めるためには、設計変更理由をメモしておくことや、正確に意図を伝えることも重要です.



試験

人工衛星開発のプロジェクトを学ぶことが主目的であるため、授業ではプロジェクトの進め方も指導されます。また、上空4000mに打ち上げるため厳しい安全審査があります。以下がレギュレーション試験の項目です。この他にEnd-To-End(ミッションの初めから終わりまで)にも内包される各シーケンスのミッション試験もあります。

  • 質量試験

  • 機体の収納・分離試験

  • 通信距離試験

  • 落下試験

  • 静荷重試験

  • 振動試験

  • パラシュート開傘衝撃試験

  • 周波数変更試験

  • 通信機ON/OFF試験

  • End-To-End試験

試験は,試験のための装置やセンサを作ったり、試験機を借りる交渉,製作に合わせたスケジュール調整も行う必要があります.
ミッションレビュー、一時審査、最終審査と3回提出し,試験結果の合格で晴れて大会への出場が決まります。製作が間に合わず,ギリギリのタイムスケジュールで審査書を提出していました.

大会当日

そして迎えた大会当日.ホテルでは毎日徹夜して,早朝の肌寒い中車に乗り込んで片道2時間半をみんなで運転.地平線が見えるくらいの広大な砂漠のど真ん中で打ち上げを行いました.(詳しくはアメリカ旅行記の前編で)
帰国後に打ち上げ結果をプレゼンし,Best Misson awordで1stを頂きました.


最後に

衛星開発系の研究をしている学生やCanSatの経験がある学生が主に参加していたので, 宇宙開発とは間接的な関りしかない自分としては少し不安でしたが,結果的には非常に有意義な半年になりました.今年の初めに書いたnoteで技術系の活動をすることを目標に掲げていたので達成できてよかったです。

歳重ねていくと仲間と一つの目標に向かって徹夜で議論してモノを作るみたいな活動もできなくなっていきます.でも,チームのモチベーションは高く,諦めが悪いので常に手を動かして細かいところまで議論していました.ミッションの成功という同じ目標のために,技術を元にした会話ができるのが楽かったです.歳をとっても情熱に動かされる感覚を大切にしていきたいです.
仲間のモチベーションをあげるより,モチベーションが高い環境を選んで身を置く方が充実した時間を過ごせます.充実した時間を過ごせるよう,健康な若いうちはこれからも色々とチャレンジしていきたいです.


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