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エステはエステルから?

――「エステ」は旧約聖書の「エステル」に由来する。
 
二年ほど前のことである。説教の中で牧師がそのようにはっきりと語った。真顔でこう信じていること、また神学部でも普通に信じられているとも聞いて、我が耳を疑った。どうしてこんないいかげんなことを堂々と説教で語ることができるのか、私は訳が分からなかった。それは違いますよと言っておいたが、ついに訂正はされなかった。説教で聞いたのでそれを信じて拡散する人がいたかもしれない。どこかで恥をかくことになったかもしれない。後からでもよいから訂正はしなければならない。
 
その後すぐに私はとりあえずGoogle検索を頼った。というのは、以前に何か調べたときにも、何の根拠もなしに、エステはエステル記でエステルが美容を施されたからだ、というのを見た記憶があったからだ。しかもその時見た限りでは、「だそうです」調のものが多かったので、おそらく誰かがネットに載せた記事を見て、ちょっといい話だ、とか、語源についてのレアな話だ、とか感じて、それをただ引用して拡散していっただけではないか、と想像する。
 
そもそも「エステ」はエステティック(ドイツ語ならエステティーク)の日本的な略称に過ぎず(エステティックサロンというでしょ)、その意味は英語なら「美的」しかまず考えられない。「外科」のような語がついて初めて「美容」と訳す場合がある程度で、この語を「美容」と一般的に訳すことには無理がある。
 
その時私が見たインターネット上での、このデマについての文だけを並べてみる。
 
 
エステルとは現在女性に人気のあるエステの語源です。美しい王妃の名です。(ある教会の説教の要約より)
 
エステの語源になったエステルの美貌による超セレブな出世と、命と美貌をはった、ユダヤ民族救済の物語です。……応募者は王宮出入りの美容師が6ヶ月をかけて、美女を更に美女につくり上げます。体形の整形、肌の基礎づくり、化粧の仕方、メイク、話し方、挨拶、全てです。これに6ヶ月をかけます。これがエステの語源と言われています。
 
エステはエステル・・?
昨日は教会の祈祷会でした!
祈祷会はエステル記の話だったのですが、そこで疑問が一つ...。
エステの語源はエステルなのだろうか・・?
すると、一人の姉妹は「私はそう思っていた」と言った。
気になった僕は、帰宅後に”エステル、エステティック、聖書”
の3つのキーワードで検索をしてみたら、
個人Blogでしたが、「エステはエステル記が語源らしい」
という書き込みがされていた。
これは本当なのだろうか??

コメント
そうなんですか?!
エステはエステティックの略だと思ってました。
エステル(Esther)は、「星」って言う意味ですよね?

コメント
おはよう!これ、少しネットで調べたけど、ESTHERがESTHETICの語源だ、ってはっきりとした情報は今のところなし。
英語のESTHETICという意味は、何が美しいかを言付ける哲学から来ているみたい。
ん~。完璧な裏づけはないね。。
私は、クリスチャンになりたての頃、当時のディサイプラーに確か、エステはエステルから来てる、と教わったんだなぁ。。
そっかー!とエステに行くことは全くguiltyには感じない私を培ってくれたから、ま、いっかー!
 
エステの語源がエステルだと聞き、体を磨くことが、なんだかこの話の「ビジュアル的な」中心のように思えます。
 
【エステ】という言葉自体、聖書の『エステル記』に出てくる玉の輿になったお姫様の名前からも由来し、またモデルという言葉の由来も、このエステル記を読んでいると、だんだん意味が分かってきたのでした。
 
エステティックの語源は実はペルシャ大王の妃となったエステルだそうです。(以下、エステル記のあらすじが書かれただけ)
 
「みなさん、エステの語源をご存知でしょうか?」という明るい第一声から始まった講演会。エステの語源はペルシャ大王の妃となった「エステル」にあり、王の許に嫁ぐまでの1年間のケアがエステと呼ばれるようになりました(旧約聖書のエステル記2:12)。私は、これまで100人の方の顔を借りてフェイシャルエステをさせていただきました。エステを通して、大好きなイエス様のことをお伝えできたとありがたく思っています。
 
(エステル記のあらすじの紹介の中で)――いわゆる美容の「エステティック」「エステ」の語源は、ここから由来していると言われている。
 
エステの語源と言われる「エステル」は、ペルシャのアルシュエロス王の奥様
ユダヤ人を滅ぼそうとする企みを、命がけで阻止した女性
 
「エステ」の名前の由来になっているエステル(エスター)が王妃選びのためにオイルマッサージを受けたという、古代ペルシャのシュシャン城から 名前をいただきました。
 
エステの語源は、旧約聖書にある歴史物語「エステル記」の主人公エステルからきています。
 
 
そこそこ数はあるが、ソースはそう多くないような気がした。非常に地味な拡散ではあるが、案外、「この情報は自分だけが見つけた、これは使えるぞ」という心理によって、したり顔で話すというケースもありうると感じる。しかしどれひとつとして、「エステル」がどのように「エステ」になったのかを説明したり根拠を示そうとしたりしたものはない。まして、「エステティック」の語の略がそれであることにすらどれ一つとして触れていない。恐らくすべてが「聞いた話」で書いていると推測される。私が見た限り最初に、断定口調で説教要約に書いている教会の牧師に、ぜひその根拠をお聞きしたいものである。それがどこから分かったのか、と。
 
エステティックは本来aestheticと綴り、フランス語esthetiqueが元なのかもしれないが、ドイツで「美学」を表す語として用いられ始めたときは、Aにウムラウト(上にある2つの点)が付き、「エ」の発音であるが、ウムラウトなしで書く場合には「Ae」と記す。
 
これもネットの中から知ったので、真実かどうかは定かでないという形でご紹介すると、エステティックの語は元来ギリシア語のαισθησισ(最終文字はsのような自体になる。なお、θはth)という語に由来する。日本語でないサイトは軒並みこの語の関係を結びつけており、エステルとエステを結びつけたのは日本語ばかりである。まるでラノベが、羅さんが述べた小説だ、と言っているようなものではないか。
 
その語義は「認識」と普通訳されるが、「感覚」をも含むようなものであるから、美的感覚の方に特化したときに、美学を表すものとして用いるようになった可能性がある。カントと同時期、ドイツの哲学者バウルガルテンが若き日に著した美学の理論書が嚆矢であると言われるのが一般的であろう。概念史は単純には断定できないことがあるので、真実のところは研究者の探究や説明を俟ったほうが賢明ではあるだろう。

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