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コンテナハウス vs. 木造建築

当施設の管理棟は、コンテナハウスと木造在来工法が同居した形態となっている。
コンテナハウスとは、海上輸送用コンテナの規格に合わせた全金属製の構造物で、『ラーメン構造』により極めて強固な躯体を持つ。かつては、使い古しのコンテナを修復して流用していたが、最近では建築専用に設計・新造されたものも一般的になりつつあるようだ。

コンテナハウスの魅力は、なんといってもそのクールな外観だ。一見無骨な印象があるものの、木造のように間柱の位置にとらわれず自由に壁を抜くことができるから、積み重ねたり繋いだりと、デザインによってはかなりスタイリッシュな演出が可能だ。店舗やアトリエなどでの採用が多いのも頷ける。

当施設がコンテナハウスを導入した経緯については以下の記事をご参照いただくとして、ここでは「コンテナハウスって実際どうなの」…と、コンテナハウスの導入を逡巡されている方々の参考になるべく、当主の経験と感想を記述させていただく。




2021年4月25日 設置直後のコンテナハウス
整地した上に30cm角のコンクリベースを二枚重ねた簡易基礎だがこれでまったく問題なし


コンテナハウスのメリット

  • 極めて強靭な構造体である

  • 基礎工事が不要(条件付き)

  • 竣工までの期間が短い

  • 長いスパンで壁が抜けデザイン性が高い

当主がコンテナハウスを導入した動機は、「とにかく堅牢である」という点を高く評価したからであった。積雪量が軽く2mを超える豪雪地帯に仮設小屋を設置するにあたり、もしかしたら冬季は1回も現地を訪れることができない可能性もあり、その間積もった雪の荷重に耐えられる建築物として、コンテナハウスに白羽の矢を立てた。

基礎工事については、整地された土地であれば、最悪30cm角のコンクリベースを四隅に配置し、板切れを噛ませるなどして水平を取るだけでも実用上は問題ない。実際、当地でもこの対処で積雪期のピークを乗り越え、およそ15ヶ月間ほど『アラモの砦』であり続けてくれた。

建築用コンテナハウスは、主に中国某所の工場にて生産されているようで、発注から納品まで、場合によっては2ヶ月程度で完了できる(諸条件により異なる)。
20ft規格(約6m)のものなら4tユニック1台で設置できるから、とにかく早く超堅牢な詰所が欲しいニーズに対して、これ以上の回答はないように思われる。


設置作業のようす
当地の場合、悪路のため設置点まで4tユニックが到達できず
やむなく隣接する舗装道路からクレーンで吊ることになった


デザイン性は、特筆に値する。周囲を覆う波型の鉄板は厚み2mm程度でまったく応力を担当しておらず、極端な話、壁はすべて取っ払っても強度的にはなんら問題ない。四方を窓にするなどという、突飛なデザインも許容されるのだ。
これを木造建築で実現するとなると、相当強度のある梁をかける必要があり、コスト的にも大きな障壁となる。


2022年1月10日撮影
雪庇が北朝鮮の軍帽のように張り出している
積雪が2mを超える豪雪地帯であっても雪下ろしの必要がないほど堅牢な構造だ


コンテナハウスのデメリット

  • 意外と高価である

  • 夏暑く冬寒い

  • 錆びる

鋼鉄製の四角いコンテナを4tトラックで運んで「ひょい」と置くだけ…のわりには高価だ…と思う。
当施設の場合、設置場所周囲の整地(約40㎡)、20ftコンテナの新造〜輸送〜設置からの、壁と天井に断熱材を吹付け、ドアなどの建具を装備し、仮設電源を引き、バイオトイレを設置(DIY)し、『アラモの砦』として最低限の機能を実現させるために累計でおよそ350万円を要した。これを坪単価に換算すると90万円弱となり、基礎はおろか、上下水道も照明器具も内装すらもないシンプルな仮設物件であるにもかかわらず、これはなかなかの高い買い物である。


設置直後の内観
設置後に断熱材のウレタンを吹き付けた状態
中国の工場で吹き付けることもでき、そちらのほうが安価だが、
やはり日本の業者さんの施工のほうが数倍品質がよいらしい…ピンクだが…


コストはさておき、実際に居住して、もっとも難儀に感じているのが『居住性』だ。まさに、「夏暑く冬寒い」。
ご存知のとおり金属は木材に比べてはるかに熱伝導率が高く、たとえ断熱を施したとしても、室内は日射や外気温の影響を大きく受ける。当施設のコンテナ部と木造部を比較すると、夏場でおよそ1.5℃ほどの差が生じている。冬場はあまりに冷えるので、コンテナとの接続部を断熱カーテンで遮断し、木造の居室だけを暖房するようにしている。
また、金属は水分を調整できないので、屋内にカビが発生しやすい。このように、居住性については木造に大きく劣る。

鉄は錆びる。錆びる=腐食なので、長期的に考えれば強度にも影響する可能性があるから注意が必要だ。もちろん、工場から出荷された直後は錆止めを含めてしっかり塗装されているはずだが、輸送中や設置時のキズから容赦なく錆が発生する。
錆を見つけたらとにかくスプレー塗料で補修をするのだが、市販の塗料では色合いが悪く、補修部分がまだら模様になってしまうのがストレスだ。


2022年9月19日撮影
完成間近の管理棟の木造部分から見たコンテナハウスの内装
1面の壁をほとんど抜き、大型の引き戸を2連で備えた。内装は垂木を組み合板を張り合わせた仕上げ


コンテナハウス VS. 木造建築 …の結論として

「あくまで主観」、という前提で、コンテナハウス VS. 木造在来工法のどちらに軍配を上げるかといえば、当主としては圧倒的に木造を推奨する。
昨今、地球温暖化により日本各地でも夏場の酷暑が社会問題となっており、このような環境下における全金属製の構造物は冷暖房費の消費も多くなるから、世の中の動向に逆行しているように思える。
もっとも、コンテナハウスを居住目的でなく、商業利用に割り切って導入する場合は、そのメリットを最大化できる可能性が見えてくる。デザイン性の高い大胆なエクステリアを比較的短納期で竣工させることができるので、営業開始を急ぎたいビジネスニーズにはしっかり合致する。


2023年12月24日撮影
ほぼ現在の形になっている。2023年は積雪が遅かったのでまだこの程度
居住性にやや問題のあるコンテナハウスだが、こうして木造建築と組み合わせてもなかなか個性的で、
デザイン性を重視するなら導入する価値は大いにある


…というわけで、このところあちこちで見かけるコンテナハウスを、当主の実体験をベースに検証した。
当主の場合、「豪雪地帯に耐えられる構造体」であることがコンテナハウス導入の動機だったが、実際に運用してみると、結局、建物全体のバランスを考えれば定期的な雪下ろしは必要で、ここまでの強靭な躯体はオーバークオリティであったかもと振り返る。やはり、「暑い寒い」は実生活に大きく影響するので、もしもやり直すのであれば、もっとローコストの仮設を選択するのは間違いない。

…といいつつ、もう導入してしまったので、大切に活用させていただきますよ。




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