【スペイン語エトセトラ】カタカナ英語を制する者は…

大学の同級に留学生が2人いた。一人は英語圏、もう一人は英語も堪能な南米からの留学生だったが、日本語で授業を受け、日本人学生と同じ条件でレポート提出やテストをこなす彼女たちの日本語が上級だったことは言うまでもない。

そんな2人と一緒に出掛けた合宿で盛り上がったのが、英語由来の外来語、いわゆる「カタカナ英語」の話題だった。彼女たちいわく、「マクドナルド」や「フォーク」など、本来、抑揚のある単語や日本語にない音のある単語を、日本風になるべく平たんに、カタカナ表記どおりに発音したり、それを聞き取ったりすることは意外と難しいとのこと。もちろん、英語だからネイティブの発音でその部分だけ原語の通り発音してもいいのだろうが、聞き手側が「あら、外国の方だから発音がいいのね」となってしまっては、完ぺきな日本語をマスターしたとは言えないのだそうだ。カタカナ英語の発音までをも制してこその日本語。彼女たちの、日本語学習に求める完璧さと熱意が印象に残って、20年たった今でも時々思い出す会話である。

今回、その合宿の会話をふと思い出したのは、としまえん跡にハリー・ポッターのテーマパークができるまえに原作を読んでおきたいという娘につられて、久々に「ハリー・ポッター」シリーズを読み直していたのがきっかけだ。

「登場人物で、アリーとロンとエルミオーネの中で誰が一番好き?」

こんな質問をされたのはスペインに留学中、シリーズの何冊目かが発売された時だった。私は日本でシリーズの3巻目あたりまでを読んでいたので、内容は把握していたのだが…

エルミオーネ=ハーマイオニー

だとわかるまで数十秒。「え、誰?誰?」と頭を必死に高速回転させた。

英語が原作のこの作品、もちろんスペイン語にも翻訳されているが、登場人物の名前を英語の発音をもとにカタカナに置き換える日本語と違い、スペイン語の場合は、名前はそのままのアルファベット表記で書かれる。そのため、読む人は「ハーマイオニー(Hermione)」をスペイン語の規則に従い、頭文字のHを発音せず、その他はローマ字方式で読み上げるため、エルミオーネとなるのである。私は、日本語でしかハリーポッターシリーズを読んでいなかったので、名前の綴りを知らず、それがスペイン語でどう発音されるか全く把握していなかったわけだ。

ここで私が勝手にまとめた、カタカナ英語ならぬスペイン語英語の聞き取りポイントは
・Hが発音されない(Harry→「アリー」)
ローマ字読みされる(Potter→「ポッテル」、twitter→「トュイテル」)
英語で発音されない文字も発音する(例:Ketchup→「ケトュチュプ」)
Sから始まって子音が続く単語には頭にEを付けて発音することがある
(例:Stop→「エストップ」、Spiderman→「エスピーデルマン」)

最近は、私が留学していた20年前に比べ、インターネット関連用語をはじめとして圧倒的に英語由来の外来語が増え、若者を中心に、英語そのままの読みで発音する人も増えている。また英語教育の強化で若者の英語レベルが向上し、英語の発音に抵抗のない人も増えている印象だ。だが、(これまた私の勝手な印象だが)例えばベルギーやスイスなど二か国語以上が公用語でバイリンガル/マルチリンガル人口の多い国や、北欧諸国など英語レベルが高い国に比べて、スペイン人は日本人によく似た「英語コンプレックス」を抱えているイメージがある。

このため、年齢層が高くなればなるほど、外来語を多用したり、上手すぎる発音で外来語を発音したりすると、「トュイダー(twitter)だって?スペインじゃトュイテルって言うんだよ」「Meeting?スペイン語にはちゃんとreunión(会議)って単語が存在するじゃない。スペイン語を喋りなさいよ」なんて、冗談半分、息巻く人もいる。

ずぼらなスペイン語学習者である私などは、英語の単語しか思い出せないとき、この英単語なら通じるよね、なんて辞書を引くことを怠ってしまいがちだが、そんなときに頭に浮かぶのは「マクドナルド」で「フライドポテト」を頼んでいた留学生の友人の姿である。アリーの友人はロンとエルミオーネよね。そんなことを思いながら読み返すハリー・ポッターなのでした。

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