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俺がカミソリ持ってフェイスシールドつけてたら怖くないすか?【第26回マスクの向こう側】

<まえがき>緊急事態宣言が出された当初より、休業要請から外されていた理美容の仕事。今回は地域で父子二代にわたって理容室を営む方にお話をお聞きしました。「営業してよし」というお墨付きを得る一方、感染対策や営業方法は、各店舗に丸投げされたまま。コロナ下の悪戦苦闘が伝わってきます。

●「密着」に当たる顔そり・髭剃り
●理容室でも、都心と地方では影響がだいぶ違う
●理美容業界は、意外と景気に左右されない

―自己紹介をお願いします。
首都圏近郊で、理容室をやってます。もともと親父が自宅で始めたお店で、もう40年以上になるのかな。俺にとっては生家。理容師免許を取って一緒にやり始めてからは、かれこれ20年近く。最近、親父が年を取ってきたのもあって、基本は一人でやってますね。お客さんの年齢層は様々。近くに大学があるから、10代、20代のお客さんも多いかな。上は70代くらいまで幅広い。新規もいるけど、大体はリピーターで長い人だと、それこそ何十年も通ってくれてる人もいるよ。

―コロナの影響について教えてください。
最初に影響を感じたのは、2月末の学校休校かな。それで少しお客さんが減った。3月は本来、年度末だから、結構忙しいはずなんだけど、学生さんがあんまり来なくて。それで、4月に緊急事態宣言でしょ。理美容は「休業要請の対象に入らない」って、最初から明らかにされていたから、不安はなかったよ。でも、営業は続けてもいいとして、問題なのは、どうやって営業をするかだよね。何も対策しないという訳にはいかないでしょ。世間的にも。だから、他の理容室に連絡をとって、話を聞いたりした。

―具体的には、どんな風に対策したんですか。
まず、営業時間を短縮。いつもは21時まで開けてたけど、それを19時までにした。それと常時マスクをつけることと、消毒を徹底すること。カットする前にシャンプーさせてもらうこと。それから、悩んだ末、髭剃り・顔そりはしないことに決めた。周囲からは「フェイスシールドつけてやれば」って言われたんだけど、それもな…って。うちは地元の人が来る街の小さな理容室でしょ。お客さんも親しみをもってきてくれるのに、フェイスシールドつけてカミソリ持って「どうも」なんて言ったら、お客さん落ち着かないでしょ。幸い文句を言う人はいなかったよ。代わりに、散髪した後、あったかいタオルで顔を拭いてもらうようにしたら、それだけでも「気持ちいい」って喜んでもらえたし。

―集客や売上への影響はどうでしたか。
売上は確かに凹んだけど、補償してもらわなきゃいけないほどじゃなかった。緊急事態宣言から2週間は、あんまりお客さん来なかったけど、それを過ぎたら、ぼちぼち戻ってきたし。知り合いの同業者が何人かいるんだけど、都心部にあるところは大変だったみたい。それなりの規模で、人を雇っているようなところは特に。全然人が来なくなって、休業したところもあると聞いた。うちはその点、セットは2面だけ。しかも、今は親父がほとんど稼働していないので、基本1面だけ。いくらお客さん来ても密になる心配もないし(笑)、人も雇っていないから給与も心配ない。割とお気楽な面もあるかもね。

―緊急事態宣言が解除した今は、どんな感じですか。
緊急事態宣言が本格的に解除したのって5月末くらいだっけ? 最初の頃はこっちも「やっとかー」なんて他人事のように思ってたら、そこから電話ががんがん鳴り始めて。それまで自粛していたお客さんが一斉に予約を入れてきた。モヤモヤしてる分、せめて髪を切って気分だけでもすっきりしたい人が多いんじゃないかな。日本人って年末とか年度末とか、節目になると髪切りたくなるんだよね。律儀というか、真面目というかさ。だから自粛も上手く行ったんだろうけど。おかげさまで今は、貯まっていた分を刈り取るみたいな感じで、すごく忙しいよ。もちろん、マスクとか除菌とか感染対策は続けているけど、世間の様子を、見ながら、そろそろ髭剃り・顔そりも再開しようかなって思ってる。

―コロナ前後で、大きな違いってありますか。
体調管理だね。今までだったら「少し風邪っぽいけどまあいいか」で許されたけど、そういうわけにはいかないから。ゴホンゴホンって咳をするだけでも、お客さんも心配するし。おちおち風邪なんて引いてられないよ。だから、夜更かしもしないし、食べ物にも気を使うようになった。むしろ、以前より健康になったくらいじゃないかな(笑)。あと、人によってコロナに対する意識に温度差があるので、それは結構気を遣うな。すごい感染対策を気にする人もいれば、全然気にしない人もいるから。除菌も相手によって、言ったり、言わなかったり。言い方変えたり。そう考えると、意外と、ストレスたまってるかも。

―これからの業界はどうなっていくと思いますか。
理美容って、いい意味でも悪い意味でも、景気の影響を受けづらいんだよね。不景気だからって、髪の毛が早く伸びたり遅くなったりするわけでもない。切りに行く頻度が少し変わるだけ。月1回だったのが、2か月に1回になったり。まったくのゼロになるわけではない。それはリーマンショックの時もそうだったし、東日本大震災の後も一緒だった。最初は落ち込むけど、時間が経つと戻ってくる。だから、そんなに焦ってはいないよ。ただ、少し心配にはなるよね。お客さんが来なくなると「あの人どうしたのかな……なんかあったのかな……」って。だから、連絡が来るとほっとする。無事でよかったーって。でも、緊急事態宣言が解除した後、来るお客さんみんな髪がぼうぼうになってて少しおかしかったな。マスクで隠れちゃうのを理由に、髭を生やし始めた人とかもいてさ。(Rさん/理容師)

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コロナ前後で大きく世界は変わると思います。1年後、5年後、10年後、「あの時、何があったのか」をしっかり振り返ることができるように書き残していきたいと考えています。フォローしてもらえるとすごく嬉しいです。twitterもやっています。

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