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僕はネコを飼わない

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猫が大好きだ。

あの滑らかな毛並み。
もふもふした手触り。
ネコ吸いした時の匂い。
グルグルと鳴らす喉の振動。
気まぐれな甘え方。
解らない怒り方。
無防備な寝顔。
真っ直ぐな瞳。
ネコを膝の上に乗せて、日の当たる縁側で1日中過ごしたい。

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大学生の時にネコを飼った。
譲渡会で出会ったアメリカンショートヘア。
子猫の中で一番手足が太くて、あまり好まれなかったのか、
最後まで引き取り手が付かなかった男の子だった。
家に連れて帰り、ゴエモンと名付けた。

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トイレのしつけに手こずった。
絨毯の上でおしっこをするのが好きだった。
最初の数ヶ月は毎日がお掃除だった。
腹が立つこともあったけど、
寝る時に時々、僕の股の間で丸くなっているのがたまらなく愛おしかった

酔っ払って帰ると、酷く強く抱きしめたりして、激しくパンチされ引っ掻かれた。
腕や首が引っ掻き傷だらけだった。
でもその傷も何故か嫌ではなかった。


僕の出かけ先が大学から勤め先に変わっても、ゴエモンは相変わらず気ままで、時に甘えて来て、時にパンチした。


ネコがいる生活が当たり前になり、いつまでもこんな毎日が続くと思っていた。

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社会人10年目。
仕事をやめコツコツ貯めていた貯金を使って旅に出る事にした。
10歳を越えたゴエモンも相変わらず元気だったので、実家に預けた。
世界中を旅して、家に帰って来た時には1年半が過ぎていた。

本当に久しぶりに会ったゴエモンはすっかり姿を変えてしまっていた。
あんなに太くて力強かった腕はすっかり細くなり、
滑らかで光沢のあった毛並みは、油が抜けカサカサになっていた。
放置されたりいじめられたわけではなく、病院にも連れていってもらっていたが、どんどんと衰えていったようだ。

家に帰った時、ゴエモンはか細い泣き声を上げ、
僕の膝の上に乗った。

痩せたせいで余計に大きく見える目で僕を見上げて、
また一つか細い声で泣き、少しゴロゴロと喉を鳴らして、そのまま僕の膝でオシッコをした。
そして大きく息を吐いた。
そのまま動かなくなった。

今でもあの時、膝にかかったオシッコの温もりを覚えている。
カサカサの毛並み、ゴロゴロと鳴らした喉の振動を覚えている。

胸が切り裂かれた。
声を上げて泣いた。

僕が悪かった。
ずっといつまでも一緒にいれると思い込んでいた。

お前が甘えて来てたんじゃない。
僕がお前に甘えていたんだ。
ありがとう。
ごめんなさい。

ゴエモンが旅立ってからもう10年以上が経つ。
今でも泣いている。

ネコが好きだ。
可愛くて、気まぐれで、癇癪持ちで、
そして優しい。
僕はネコの大きく深い優しさに応えられるのか。
解らない。

だから僕は、まだネコを飼わない。

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「孤独」と「無関心」について考えています。 腑に落ちる解を死ぬまでに見つけてみたいです。 「頑張る」の真意は何。