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地方からできる災害即応組織

災害対応は自治事務

今回の地震でも自衛隊が活躍しました。当初自衛隊の重機を積んだ大型キャリアが被災地の狭い道路を通ることができず、代わりにボランティアの小型重機を積んだ3トンダンプが先に現地に入りレスキューや道路啓開で活躍したということがありました。
その一方で毎回自衛隊に頼り切るのはどうなのか?自衛隊の本来業務は国防なので依存する行政の在り方はいかがなものかという声もあります。また憲法で禁止されている軍備を放棄して災害救助即応隊に改組しようという声も出てきています。ここではその議論には踏み込まず、今あるリソースを使い都道府県政令指定都市レベルでできることがないのか考えてゆきます。

ところで災害対応は地方自治体の「自治事務」の一つです。対応主体は市町村で、県や政府は補完役だということになっています。しかし激甚災害では市町村の行政担当者も被災してしまいこの自治事務が全く機能しなくなります。市町村は平成の大合併で行政職員が激減し、地域が衰退しているところに災害が襲う。そういうケースが増えています。そう考えると自然災害に限らずオールハザードアプローチの主体は都道府県・政令指定都市レベルにしたほうが良いようにも思えます。

LEMA(Local Emergency Management Agency)

アメリカでも大規模災害が起きると自己完結性を持った州軍が出動します。日本でも州軍のような部隊を持ってはどうかという話も出ていましたが、アメリカの州と都道府県では事情が違いますから、いささか話が飛びすぎでしょう。またアメリカは州軍が単独で対応するわけではありません。消防やCERTなどの市民即応組織、NPO、そしてそれらを束ねマネジメントするFEMA、また関連する組織が備えるべきICSというマネジメントルール・トレーニングスキームがあり、それらの仕組みが対応します。

現実的な話をすると、日本の都道府県レベルでも自己完結性をある程度持った災害に即応する執行機関が必要だと思います。しかしそれは軍隊である必要はありません。古くは阪神淡路大震災、そして今回の能登半島地震で漏れ聞こえてくるのはやはりマネジメントの貧しさです。平時の官僚機構、平時の管掌範囲で工夫するにも限界があるのです。もしアメリカを見習うなら州軍ではなくFEMAの方でしょう。マネジメントの改善なら憲法論争に巻き込まれることはありません。今から地方政治家が着手できます。

地方版FEMA(Federal Emergency Management Agency)なのでLEMA(Local Emergency Management Agencyと仮に名前を付けてみます。

LEMAは自分自身、執行機関本体を持ちません。災害初動から現地で活動するための自己完結性を持つための訓練を受けた少数の専門官で構成されます。災害対応を考えた場合、レスキューや消火は消防、捜索や治安維持は警察が担当します。それ以外の業務を担当する機関がないのです。

  • 道路啓開や瓦礫撤去のための土木作業

  • 物資や人員の輸送

  • 避難所の被災者をケアする看護・介護

  • 炊き出しや給水

  • 家屋や事業所の復旧

  • 法律相談や行政手続きの補助

  • そのほかの労働集約的な支援

どれを見ても平時にある業務に関係します。ただ、環境が特殊なのである程度の自己完結性が必要になります。そうであれば餅は餅屋。被災地支援に応じてくれる事業者に有償で参加してもらう形のほうがよいでしょう。つまりプロボノということです。

一般市民も参加

しかしプロの事業者は本業があり必ずしも即応できるとは限りません。サージキャパシティが必要です。一般市民から有志を募集して、支援業務に必要なスキルを訓練するのです。例えば高校や大学のサークル活動や、市民のリスキリングとして広範な層に募集を描けます。
プロほどではないにしてもある程度の技能を持っていざというときに対応できる人材が市民の中にプールされている状態を目指します。また初歩的な職業技術を広範な市民が身に着けることにより意識が高まり、人手不足となっている地元業界への誘導にもなります。一石二鳥ですね。

被災地での活動に必要な能力と装備そして管理技術をLEMAが提供します。FEMAがそうであるようにLEMAは教育訓練機関でもあるのです。また予備自衛官がそうであるように定期的に実践的な演習を受けさせます。

  • 野営設営訓練

  • 機械操作訓練

  • 通信訓練

  • 管理技術訓練(日本版ICS

またLEMAは災害対応の全国のNPOなど専門の民間組織、あるいは多様な業種の事業者とも「顔の見える関係」を築いて、できれば協定を結び、受援に備えます。

LEMAは様々な関係を駆使して地域のリソースを管理し磨きをかける機関だということです。

自律と連携こそが地方自治の本旨

こういった教育内容・技術内容について、遅く形骸化しがちな霞が関の対応を待つことなく、自分たちで切り開く覚悟が必要です。一自治体ではリソースや知見が限られます。できれば有志自治体と連携しコンソーシアムを立ち上げるなり、共同でNPOを立ち上げて研究開発を任せるなり、できる限り自助努力をするべきでしょう。

アメリカの事例が続きますが、例えばアメリカのレスキューや消火の技術を研究開発しているNFPA(全米防火協会)は連邦政府の下部機関ではなく、参加自治体消防が出資しているNPOです。市民の救命救護技術を定めたハートフォードコンセンサスは、政府の通達でも指導でもなく、その名の通り自治体機関や市民団体が集まって決議したコンセンサスであり、同時にアメリカのスタンダードでもあります。スタンダードがあれば、何かがあっても裁判でスタンダードということを武器に戦えますし、保険業も補償の計算ができるということです。国任せにせず、本当の意味で自分たちでやり遂げる意思がなければ、地方自治に活力は生まれません。

そして国レベルでは

世間では防災省の設置を求める声が上がっていますが、単なる事務屋の横滑りなら、貧乏予算の弱小省庁が一つできるだけです。せっかく国家安全保障会議という省庁統括のスキームがあるのですから、直下に日本版FEMAをつくるほうがいいでしょう。むろん事務屋の横滑りではなくアメリカのNIMSレベルのトレーニングを受けた専門官が担当。危機対応に関して何でもそうですが知識ではなく訓練ありきです。



消防団と自治会について言及していないことに気づかれた方もいると思います。いずれも地区の中で地区防災にかかわる人たちであり、地区の境界を超えた広域の活動にはなじまないためです。消防団を予備役か何かの様に便利に使おうという声が上がりますが、このような理由から賛成できません。


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