R1年10月21日~31日

①第六回目の独演会を開催しました。普段ではどうしても独演会などでやる独自色の濃いアレンジと通常バージョンとを分けてしまいがちになるのですが、今回は『目黒の秋刀魚』という、とても有名な噺でそれを乗り越えようと画策しました。ほのぼのとした演目だと思われてると思いますが、この噺には殿様の狂気が渦巻いています。権力者であるがゆえ様々な制度に雁字搦めになるなかに生まれ、偶然に未知(さんま)と遭遇してしまったひとりの人間。その情動は、いかほどか。

②師匠が定期的にずっと出演しております三鷹市の文化財・井心亭での独演会が来年で終わるとの報を23日の会で知りました。ここ井心亭は僕の初高座の場所だったので、思い出深いところです。はじめて『道灌』を喋ったところ。5分の持ち時間をいただいたのに7分やってしまったこと、高座おわって師匠から「落ち着いてやれ」とのお言葉、覚えています。マイクのいらない会場。ここにまた戻れるだろうか、そんなことを思います。

③大塚恭司監督『東京アディオス』という映画を池袋シネリーブルで観ました。地下芸人を追いかけた、実話に基づくフィクション。主演は横須賀歌麻呂さん。去年オルガナイザーGXと劇団「地蔵中毒」で主催したパイ寄席でご一緒した際、もの凄い爆笑をとっておられたのを覚えています。ライブの中で、会場のボルテージが最高潮のとき舞台に立っていたのが、間違いなく歌麻呂さんでした。

ちょうど先週にジョーカーを観たところで、なんとなく似ていてまったく違う両者なのですが…。上を向いて上を見てどん底を自覚して、そんな己を否定しようとしたジョーカーと、そんな己に脅えながらも舞台に立ち向かうという仕方で肯定をし続ける地下芸人という対比があると思います。自分も売れない芸人のひとりとしてのプライドは、絶対にジョーカーにならないことにつきます。

④母校明治大学落語研究会の60周年を記念した落語会が有楽町の朝日ホールでありました。名だたる真打の師匠方から、がじらまで。落研出身の芸人たちが一堂に会しました。個人的に嬉しかったのは、上京してからずっと世話になっていたひとつ先輩の金指さんが、4000年に一度咲く金指として咲きまくっていることで、一緒の舞台に上がれて本当に良かったです。

数多くの先輩方が、夢見て叶わず諦めざるを得なかった道を自分は進んでいるんだということもしっかり自覚しようと思います。僕は誰に頼まれたわけでもなく、芸人になりました。だから芸を、突き詰めなければなりません。

⑤王子小劇場で、日本のラジオ『ナイゲン〈暴力団版〉』を観ました。密室での会話劇というワンシチュエーションなのですが、飽きたりダレたりする瞬間がないほど見事でほれぼれしてしまいました。任侠ものなので、各キャラクターのスタンスそれ自体はわりとステレオタイプに決定されてしまいますが、それゆえに発言が次々と脱構築されてズラされ引き延ばされひっくり返されたりするさまがズバンズバン決まってノンストップ。日本のラジオらしいラストの締めくくりも良かったです。落語だととても粋な下げ方。

北野監督の『アウトレイジ』シリーズでは、やくざ同士の怒号のやり取りを編集で演技の間をカットして漫才の間のようにしていったそうですが、脅しと懐柔の波がもたらすこのリズムは、ある種のエンターテイメント性をもの凄く持っていると思います。緊張、そして緩和。笑いの原理もこれであります。作演の屋代さんは、結果としてコメディになった、と呟いておられましたが、笑いの方向性が出てくるのはヤッパリそうだろうなあと、感じます。

11月に入ります。

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