じゃん負けレッドの下剋上
今朝の俺は気合が入っている。
なんたって、うちの戦隊に新入りがきた。アキという、気の弱い年下の少年だ。
イエローもピンクもブルーも、俺のことを年下だからってナメてやがる。放っとけばアキまで雑に扱いかねない。“じゃん負け”でなったとはいえレッドはレッドだ。俺がしっかりせねば!
……と、思っていたのだが。
「えっうまッ! アキくんこれお店出せるよ!」
「やった!」
イエローは、大好物(らしい。俺は知らなかった)の坦々麺であっさり陥落。
「アキ、台所の掃除は……ってすごいな。鏡みたいだ」
「ありがとうございます!」
ブルーのパワハラを先回りするかのように飛び越えて、一目置かれ。
「ごめーん寝坊した! 燃えるゴミ……」
「あ、出しておきましたよ!」
「えマジ!? よくゴミの日てわかったねアッキー?」
「あ、っと……玄関に置いてたので、そうかなーって」
完ペキなフォローでピンクにも気に入られ。
「アキ、少し良いか」「はい!」「アキくーん!」「今いきます!」「アッキー!」「おーいアキ!」「アキさーん!」
他の連中も、寄ってたかってアキアキアキアキ。
ほんの半日で、アキはすっかり“みんなの可愛い弟分”として受け入れられ、頼られている。俺よりも!
「……パトロール行ってくる」
なんだか居た堪れなくなって、俺はスタジャンを片手に家を出た。
見送りの声はなかった。
***
歩いて歩いて、2時間ほど経った頃。
裏路地に二つの人影を見つけたのは、全くの偶然だった。
「おや。君ははじめまして、かな」
そう言ったのは、占い師風の汚いオッさん。そしてもう片方は。
「……アキ?」
「え、ハルさん!?」
「お前こんな所でなに──」
その時。
占い師がアキへと手を伸ばした。その掌に輝くは魔法陣──怪人の証!
「! アキ、危ねぇ!」
「わっ!?」
無我夢中だった。アキに向かってダッシュし、突き飛ばす。占い師が嗤う。
直後、俺は魔力の奔流に呑みこまれた。
***
今朝の俺は気合が入っている。
(つづく/800字)
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