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神器戦士ミツマナコ 世界を渡る神器の巻

(ここまでのあらすじ)
 ユグドとセンブは旅人だ。さる神の命により、<真なる神器>を探している。
 ユグドはヒョロい黒づくめで、額に第三の目を持っている。センブはゴツい白装束。最近は旅のお供に、ハルという襤褸を纏った少年も加わった。
 時は創世の時代。赤茶けた荒野と大河の如く伸びる樹海に分断された世界で、彼らは超常現象の噂を聞きつけては各集落を巡り、トラブルに首を突っ込んでいく。
 大抵の場合、トラブルの元凶は神器のレプリカか、魔なる者が作った器<魔神器>であり、ユグドはセンブの力を借りて神の戦士<ミツマナコ>へと変身。力づくで事態を収めている。
 さて、今回の神器は──?

 ガチャガチャガチャと音を立てて、土偶みたいな連中が追いかけてくる。

 いや、土偶とは土で出来ているものを指すはずだ。あいつらは金属製のようだから、金偶というのがふさわしいかもしれない。

 ……そんなことを考えていたら、僕の前を走るセンブさんが光の矢を浴びて炎上した。

「うん? 急に明るくなったな?」

 しかし当のセンブさんはこんな調子だ。いつも着ている白装束が燃え上がる中、足を止める気配はない。が……その横を走るユグドさんがギョッとして、こちらに怒鳴ってきた。

「おいハル! ちゃんと防げバカ!」

「無茶言わないでください! 四方八方から飛んでくるん──」

「ハル、真上ッ!」

「っ、はい!」

 言い返す最中、僕が手にした大鏡から声があがる。青龍様……僕の持つ神器に宿る神様だ。

 僕は走りながら、鏡を真上に向けた。途端、そこから水が吹き上がり、飛んできた光の矢と激突、対消滅せしめる。もうもうと立ち込める水蒸気が、夜空を白く塗りつぶした。

「センブさん、息止めてください!」「ん」

 鏡から吹き出した水で、ついでに燃え上がるセンブさんも消火する。服は焦げてしまったものの、本人は元気そうだ。

「畜生、キリがねーな! っつーかなんだこの壁はよ!」

 ユグドさんが毒づくように、左右には切り立った崖のように石造りの壁……というか、建物のようなものが並び立っている。

 そう、建物だ。もっとも、僕らの知るそれとはその様相が大きく異なっているが。

 まずなによりその大きさ。果てが見えぬほどの高さで、空を四角形に切り取ってしまっている。さらに側面には透明な板が嵌め込まれているようで、ところどころから光が漏れていたり、そこから僕らを見下ろしている人が居たりする。中に人がいるので、住居かなにかだろうと推測したのだ。

 先ほど“金偶”の一部が「現在地はハチバンビル区画」などと口走っていたので、この建物の名称はそんな感じなんだろう。

 僕らの左右にはそのハチバンビルとやらが聳え立っており、つまり僕らは谷底の一本道を駆けているような状態だ。さらにそこらのハチバンビルからは続々と”金偶”たちが出てきて、追っ手がどんどん増えていく。

 ……端的に言うと、追い込まれるのも時間の問題だ。

「ユグドさん! これどうするんすか!?」

「今考えて……ってやべぇ! 正面から光の矢!」

「はい!」

 ユグドさんの声に応え、僕は正面に鏡を向ける。飛んできた大量の光の矢に、吹き出した水が激突。立ち上った水蒸気が、僕らを、そして"金偶"たちの視界を覆い尽くす!

『うおっ!?』『煙幕か!?』

「今だ! ハル、センブに捕まれ!」

「は、はい!」

 戸惑いの声をあげる金偶たちを尻目に、ユグドさんが指示を飛ばす。僕は慌ててセンブさんの服を掴んだ。

「ぬぅんっ……!」

 瞬間、センブさんが力強く大地を踏みしめ、跳躍する。

 立ち込める水蒸気をぶち抜いて、僕らはそのまま聳り立つハチバンビルの中腹まで跳び上がった。

「センブ! 右の出っ張りいけるぞ!」

「おう!」

 さらにユグドさんの指示に応じて、センブさんは突起を踏んだり壁を蹴り抜ったりしながら壁を登っていく。

 どごんばごんと壁やらガラスを破壊すること数十秒。僕らはようやくハチバンビルの屋根の上に登り詰めたのだった。

 強い風が吹き付ける。

 冷たく、そして埃っぽい風。

「……おいおい、こいつは……」

 ユグドさんが眼下を見ながら、言葉をこぼす。それに僕とセンブさんはそれにつられるように下を見て、同じように言葉を失った。

 そこに広がるは、無数の構想建造物たち。ギラギラと光り輝く文字のようななにか。明かりは地平線の果てまで続き、まるで星空が大地に広がっているよう。

「……ここ、どこですか?」

 少なくとも、僕らの元いた場所──見渡す限り赤茶けた広野と漆黒の森で埋め尽くされた、創世の地でないのは確かだろう。

 僕の呟きに、ユグドさんは小さく「知らね……」と答えたのだった。

***

 例によって例の如く、事の始まりは神器の噂からだ。

 今回の噂は、人呼んで「異なる世界に行ける占い師」。なんでも、とある村の長が巻物を開くと、この世界とは全く異なる世界に行けるというのだ。

 教えてくれたのはその村に立ち寄った商人で、彼は一面に広がる大海原を背景に、下半身が魚の美女の群れとヨロシクしてきたんだそうな。

 十中八九、神器だ。それも相当な力を持ったもの。もしかしたら、ユグドさんたちの探す「真なる神器」かもしれない。

 そんな思惑と共に、僕らは件の村長(むらおさ)の家へと赴いて──

***

「魔神官の息がかかってる可能性は十分考えていたんですけどね……」

「まさかドアを開けると同時にやられるたァなぁ」

 吹き荒ぶ風の中、僕らの反省会は続く。先の商人の話では元の場所に「戻る」ための扉があるらしい。ただ……ガムシャラに走ってきたせいで、その「元の場所」もわからなくなってしまった。

「とりあえず、こういうときはセンブ頼りだ」

 その言葉を受けて、僕らの視線がセンブさんに集まる。彼は屋根の縁で膝を抱えて下界を見下ろしていたが、不意に立ち上がってぽそらと呟いた。

「あったぞ。例の巻物だ」

(つづく)

「つづく」と書いてますが、続きはいつになるかわかりません。
 ヘッズ一次創作SFアンソロジーに投稿しようとしたけどボツにしたものです。神器戦士ミツマナコは元々弥生時代くらいの時代設定なんですが、便利アイテム神器によって異世界転生的にメガロポリスに迷い込む……みたいな話でした。
 とはいえ、ハルくん目線でメガロポリスを描写するのにえらい手間が掛かった。逆に三人称視点だと彼らから見た事態のわけわかんなさが伝わんないし、どうにも冗長さみたいなものが拭えず、ここまで書いてお蔵入りとなりました。

神器戦士ミツマナコの第一話
▼冒頭のみこちらから読めます▼

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