発色

 黴臭い匂いが少年の鼻をくすぐる。
 そこは小さな部屋のようだった。とても散らかっていて、本や、積み木や、おもちゃのせいで床が見えないほどだ。どこからともなく射し込む光はとても弱く、少年が辺りを見回しても、手を伸ばせる範囲以外は真っ黒に見える。
 白と黒と、あるいは灰色しかない世界。
 うさぎのぬいぐるみが落ちている。先ほどまでそこにあっただろうか。少年は導かれるようにそのぬいぐるみに触れた。
 その瞬間、ぬいぐるみが発光した。少年にはそう見えた。驚きの声をあげながら、少年は飛び下がる。その勢いで、彼の足元にあった小さな本の山が崩れた。ぬいぐるみの周りの光は消え、再びモノクロの世界が戻った。
 彼は、再びそのぬいぐるみに、恐る恐る手を伸ばした。少年が触れた瞬間、ぬいぐるみが純白に染まった。そして、ぬいぐるみを中心に、色が広がりはじめた。まるで世界を色が蝕んでいるかのごとく、その側にあった絵本や、積み木や、洋服が色づいていく。厳密にはそれは発光ではなく、発色という言葉がふさわしく思えた。赤色が、青色が、黄色が、橙色が、様々な色が広がり、少年の目に飛び込んでくる。
 しばるくすると、少年の視界はカラフルな世界となった。
 少年はぬいぐるみを拾い上げ、胸に抱いた。
 彼が辺りを見回すと、その部屋は−−

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