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有限会社うまのほね 第1話「学校の七不思議」 Part8

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前回までのあらすじ
 無事にタロウと出会うことのできた一同。しかし同時に、ハルキたちは七不思議"血まみれのドローン"──"ドローンのお化け"に遭遇してしまう。少年たちを逃がすべく身体を張ったハルキであったが、警備ドローンの出力に負け、あえなく昏倒させられてしまい……?

 ──冷たい。

 最初に出てきたのはその言葉で……"その音”に気付いたのはその後だった。

 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!

「うおお!?」

 つい先程まで追いかけられていた"その音"が聞こえてきて、俺は反射的に飛び起き──

「──痛っっっってぇっ!?」

 全身(特に頭)の痛みに悲鳴を上げた。

 先程ドローンに負けた場所で、そのまま気を失っていたらしい。日はすっかり暮れており、真っ暗な廊下で俺の携帯電話が震えている。ヴヴヴという音はこいつのもので、ドローンは影も形もなくなっていた。

 カンタとタロウは逃げ切れたのだろうか。カンタについては気を失っていたし……とにかく、なんとかして彼らを見つけないと……。

 ぐるぐると考えながら、俺は床で震える携帯を拾い上げた。画面に浮かぶのは【田頭さん】の文字。

「カンタの母ちゃん……? なんだろう。もしもし?」

『あ、待って、出たわ。こんばんわー、田頭ですー』

 田頭さんの隣に誰か居るらしい。タロウの母親だろう、と推測しながら、俺は返事をした。

「どうも、お世話様です」

『あの、カンタを迎えに来たんですけどお店にいらっしゃらなくて……』

「あっ」

 ──しまった、カンタが店に来た時に連絡して、その後出掛けるときに報告するのを忘れていた。

 思い出した俺の耳元で、田頭さんの心配そうな声が続く。

『さっきGPS見たら学校に居るみたいなんですけど……なにかあったんですか?』

 そういえば以前、カンタにはGPSを持たせていると言っていた。俺は「あーすみません、ご連絡せず」とか言いながら少し考えて、言葉を続けた。

「春休みの宿題で使う教科書だか本だかを、学校に忘れてきたとカンタが──」

***

「おーい、カンター? タロウー?」

 2号棟の3階。俺の投げた声は真っ暗な校舎内でしばし反響して消えた。返事はない。

 俺は廊下を進みながら、先程掛けたメガネの出力調整を行う。視野は暗視モード、タスクは捜索。対象はカンタ、タロウ、カンタのスケボー、そしてドローン……。

 メガネのツルに仕込まれたタッチパッドをいじりながら、俺は先程の田頭さん──カンタの母との会話を思い返す。

 ──田頭さんが電話してきたということは、カンタもタロウもまだ家に帰っておらず、この学校のどこかに居る。

 電話口でそう判断した俺は、田頭さんにカンタの位置情報を教えてもらったのだった。

 なお、教えてもらうために「トイレ行ってる間にアイツらどっか隠れちゃって……」と嘘をついたら、田頭さんは「まーたあいつはそういう……あとでお説教だな……」とか言っていた。ごめんカンタ、お前結局怒られるわ。

 なにはともあれ、現在地は田頭さん曰く「2号棟の真ん中らへん」で、動いている様子はないそうだ。

「おーい。カンター。タロウー?」

 廊下に向かって呼びかけるも、返事はない。メガネにも発見の通知はなし。そうして歩く内に俺は校舎の端まで辿り着いて──少し戻って、立ち止まった。

 視界の端……メガネでカバーされていない範囲で、なにかが動いたのだ。

 その部屋は音楽室だった。廊下側の窓から中が見える。試しに窓ガラスをコンコンと叩く。驚いたように、なにかが動いた。中の音は聞こえてこないので、防音ガラスなのだろう。

 俺は入り口まで移動し、ドア横の認証端末に手のひらを置いた。赤く点滅していたLEDが緑に変わり、扉がカチャンと音をたてる。

 俺はメガネの位置を直し、扉を開いた。と──

「うわぁああぁ入ってきたああああ!?」

「あああああ!?!?」

 どたばたがっしゃん。2つの影が騒がしく室内を逃げ回る。俺のメガネがピピピと音を立てて、眼前に【FIND!】の文字が浮かんだ。ビンゴだ。

「あーあー落ち着け落ち着け。俺だ。飯島だ」

 俺はドアを閉めながら声をあげる。机を集めてバリケードにしていた彼らは沈黙し……先に頭を出したのは、カンタだった。

「おっちゃん!? 生きてたの!?」

「勝手に殺すな。お前こそ起きたのか」

「うん。タンコブできちゃった」

「俺もだ」

 めちゃくちゃになった机を戻しながら、俺はカンタと会話する……一方のタロウはというと、なぜか体操座りのまま動かない。

「……タロウ? どうした?」

「そ、そうだ、おっちゃん、大変なんだ!」

「うう……」

 カンタが駆け寄ると、タロウはグスグスと泣き出してしまった。

 その背中をさすりながら、カンタがこちらを見て叫んだ。

「タロウは死んじゃうかもしれないんだ……ベートーヴェンの呪いで!」

(つづく)

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(余談)ヘッダ画像はみんなのフォトギャラリーで選んだものなんですが、これ新潟にある「最後の教室」という現代アート作品で、大地の芸術祭でも1,2を争う好きなスポットです。この廊下と体育館がお気に入り。

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