装震拳士グラライザー_設定集__5_

阿吽昇天 Part10+エピローグ #グラライザー

第1話
「阿吽昇天:装震拳士グラライザー(68)」

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- 10 -

前回のあらすじ
 千寿菊之助は68歳のヒーローである。彼はかつての宿敵・人造人間リュウと協力し、襲いきたハイドロ帝国の怪人たちと戦いを繰り広げていた。
 巨大イカオーガとの最後の戦い。襲いくる数々の暴力を避け続け、菊之助とコクリュウはついに敵を両断せしめる!
 崩れ落ちた巨大イカオーガの体内で装震エネルギーが暴走、爆発するかと思われたが──しかしその身体は、ブラックホールへと変化したのだった。

「グラライザー! ビンゴだ! 開くぞ!」

 ──直後。

 巨大イカオーガの身体が、ブラックホールと化した。

 ぽっかりと口を開けた漆黒の穴。そいつは時折ヨモツの血色のグラデーションを帯びながら、生き物のごとく蠢いている。

「なんっだこりゃ!?」

 俺が唖然とする一方、轟々と渦巻く風の中平然と佇むコクリュウは剣を鞘にしまいながら答えた。

「ヨモツの力は地獄の力。地獄から供給されるからには、繋がってるだろうと思ってな」

「地獄との、繋がり……。ってことは、こいつは」

「ああ。地獄の門ってやつだ」

 コクリュウはこちらに向き直り、頷いた。口を開く。地獄の門。確かにこの禍々しいブラックホールは、そんな様相ではある。が……

「……天国に行くんじゃなかったのか?」

 首を傾げた俺の言葉を、コクリュウは「ふん」と鼻で笑い飛ばした。

「言ったろ、予定変更だ。地獄を経由して天国に行く。地獄の軍勢が使った道を通ってな」

「おいそれ大丈夫かよ。人間が通れるやつか?」

「なるようになるさ。それに──」

 そこで一度言葉を切って、コクリュウはこちらに向き直った。

「──侵攻中に本拠地を叩くってのは、敵への嫌がらせとして最高だろ?」

「……そっちが本命だな?」

 ため息をついた俺の眼前で、ブラックホールが巨大イカオーガの残骸を飲み込み始めた。というか──よく見ると、周囲の瓦礫が浮き上がりはじめている気がする。

 俺は腰に手を当て、コクリュウに言葉を投げた。

「……で。俺の経験から言うと、まもなく俺らはこいつに吸い込まれて違う世界に行くことになるわけだが」

「当たりだ。流石は70歳、年の功だな」

「68だ。お前わざと言ってんだろ。……それより、街をこのままにしてくつもりか?」

「問題ないと言ったろ。そっちはすぐに直る」

「あん? だからそりゃなんで──」

 言いかけた俺の言葉は、近づいてきたヘリコプターの音によって遮られた。

 見上げた空、猛スピードでやってきたのは20台ほどのヘリだった。ブラックホールの轟々という音にも負けず劣らずの爆音を響かせながら、その群れは高度を下げてくる。

「…………は?」

「時間ぴったりだ。流石だな」

 うむうむと頷きつつ、コクリュウはヘリの群れを見上げている。ホバリングするそいつらから降下してきたのは、複数の迷彩服連中と──多数の重機たち。それもアームがたくさんついたロボットみたいな奴だ。

 ズシンズシンとロボ重機が着地してゆく中、迷彩服連中はコクリュウの前に整列。更に迷彩服どもは町中から陸路でも姿を現し、あれよあれやという間にその数を増やしていく。100人……いや、200人はいるか?

「「「お待たせ致しました、コクリュウ様!」」」

 その群衆の、最前列。並び立った5人の黒服が、同時に頭を下げた。

 初老の、それこそ俺と同じくらいの年頃のジジイだちだ。……って、あれ? 見覚えあるぞこいつら?

「うむ。ご苦労。……お? お前あれか、九菱のセガレか?」

 大仰に頷いたコクリュウは、黒服たちのセンターにいるジジイに声を投げた。その白髪の紳士は顔をあげ、ニッコリと微笑んでみせた。

「はい。九菱清史郎でございます」

「おお! デカくなったなァおい!」

「またお会いできて光栄でございます」

 そうだ、思い出した。大財閥・九菱重工の会長だ。テレビで見たことある。

 そうして見ると、残りの黒服連中もシムズ建設だのエムティーティーだの、知る人ぞ知る大企業・大財閥のお偉方だ。

 ……そんなお偉方が、コクリュウに頭を垂れている。

 俺の脳裏を、嫌な予感が駆け巡る。そう、コクリュウは……秘密結社イザナギの、大総統だ。

「…………おいリュウ、もしかしてこいつら」

「ああ。イザナギの残党だ。俺がアタマになってからは、日本の産業を掌握してたからな」

「マジかよ……」

 頭を抱える俺をさておいて、コクリュウは黒服たちに向き直った。

「よしお前ら。元々の想定とは事情が変わったがやることは変わらん。特にそこのクレーターとあっちのビルは重点的に頼む」

「畏まりました。1時間で元どおりにしてみせましょう。……かかれィッ!」

「「「「はっ!」」」

 迷彩服どもはイザナギ式の敬礼と共に力強く応え、即座に動き出す。よく見るとどいつもこいつもジジイばっかだ。……つまりはリアルに当時の戦闘員たちってことか。

「おいおい、こんなに残ってたのか……」

「憧れというのは、そうそう消えないものですよグラライザー。あなたが今なお、ジミ・ヘンドリクスを愛しているようにね」

 俺のぼやきに答えたのは、九菱会長だった。彼は柔和な笑みを浮かべたまま、コクリュウへと視線を戻す。

「……それにしてもコクリュウ様、凄まじい被害ですな。グラライザーとよほどの激闘を繰り広げられたのですね?」

「いや、グラライザーには瞬殺された。このジジイ昔より強えぇ」

「なんと。やはり現役なだけはありますか」

「おいおいおい俺を置いてくな。話の流れが全くわからん」

 口を挟んだ俺に対し、九菱会長は「ああ、すみません」と柔らかく笑ってみせた。

「『これからグラライザーと全力で戦う。たぶん町が壊れるので、直せるようにしておけ』……というのが、コクリュウ様の指示だったのです」

「な? 考えがあるって言ったろ?」

「そういうことかよ……」

 ため息をつく俺に対し、九菱会長は言葉を続ける。

「コクリュウ様から話は伺っております。今はただ、やらねばならぬことがあるのでしょう? それに集中なさってください」

「……俺は詳細聞いてねーんだが?」

 コクリュウに言葉を投げるが、スルーされたー。そんなやりとりを微笑ましく眺め、九菱会長は口を開く。

「……グラライザー。あなたには、個人的には色々と思うところがあります。ですが……とにかく、この場は我々にお任せを」

 その言葉を残して、黒服連中は一礼。踵を返し、現場指揮へと向かっていった。

 働くジジイどもの背中を眺めつつ、俺は改めてコクリュウに言葉を投げる。

「……おいリュウ。ひとつだけ確認させろ」

「なんだ」

「こっちに帰ってこれるんだろうな?」

 その問いに、コクリュウはあからさまに首を傾げる口を開く。

「……今までその保証があったこと、あるか?」

「いや確かにねーけどな!? 原理の問題だ、原理の! 俺ァ孫の顔が見るまで死なねーからな!?」

「その意気なら大丈夫だろ。ほら、いくぞ」

 ブラックホールに向き直り、コクリュウは歩み出す。

「あ、待ておい!」

 ズンズン進む黒マントを、俺は慌てて追いかける。畜生、帰ってこれなかったらぶっ殺してやる。

 コクリュウがそうしたのに続き、俺はヨモツ・ブラックホールに手を触れた。ずるりと奇妙な感覚がして、俺の身体が飲み込まれていく。

 ──地獄経由、天国行きの二人旅。

 立花徳次郎を救う俺たちの地獄ツアーは、こうして幕を開けたのだった。


- エピローグ -

 豊かな長い赤髪を三つ編みにした女が、淡々と報告書類を読み上げてゆく。

「──蒼天翔女アマテラス、大地守護神ジオセイバー……以上です」

「……しめて8名か。上々だな」

 その男は、血色の空を見上げながら呟いた。長く伸びた黒い癖っ毛の下からは血色の悪い肌が覗く。どこか蛇を思わせるその男は、「それで?」と先を促した。

「はい。……怪人の敗北の報告も、数件上がっております」

「ほう。早いな」

 蛇顏の男は視線を落とす。赤髪の女はゆっくりと息を吸い、報告を始めた。

「生存者の名前のみ読み上げます。まず、砲神ガンブレイザー」

「ふむ……向かったのはノブナガだったか? まぁ奴はヨモツの力を使わなんだからな」

「えっ……わかるのですか?」

「ああ。勿論さ」

 目を見開いた女に、男は微笑み返す。そう、勿論だ。この力を作ったのは、他ならぬこの男なのだから。

「……それで? 生存者はひとりだけではあるまい?」

「はい、もうひとり。……装震拳士、グラライザー」

「くふ」

 その名を聞いた瞬間、蛇顔の男は笑った。

「くふっ……くふふふふ」

 それは、赤髪の女が思わず一歩退くほどの、獰猛な笑み。極限まで小さくなった瞳孔は、ここではないどこかを見つめていた。

「やはりこの程度で死ぬ男ではない、か。くくくふふふ……立花徳次郎を誘拐した甲斐があったというものだな」

「はい。それと……もうひとつ、ご報告が」

「ほう? まだ生き残りがいると?」

「はい。その、ヒーロー……と呼んで良いのかは、わかりませんが……」

「? 一体誰だい?」

「……その名は……装震覇王、コクリュウ、です」

「──……!」

 その瞬間、男の足元の地面がひび割れた。それは男の魔力の奔流。溢れ出す怒り、殺意、憎悪そのもの。

 溢れ出す力に耐え切れず、赤髪の女がよろめいた。その様を見つめながら、男は静かに問いかける。

「コクリュウ、と言った?」

「……はい」

 女は、身体が震えていることを自覚した。それは純粋なる恐怖。強大なるその男の殺気、その一部だけで、本能が警鐘を鳴らしている。

「……コクリュウ。コクリュウ。僕を殺した、あのコクリュウ、だよね?」

「はい。仰る通りです」

「……グラライザーに殺されたはずでは?」

「しかし……その、グラライザーのそばに居り、共に戦っていた、と……」

「くふ……くふふふふふ……!」

 女の答えに、彼はこらえ切れぬといった様子で肩を揺らす。床板の破片がビリビリと震える。女の恐怖はピークに達そうとしていた。彼女は半ば無意識に、腰に提げた得物に手を添え──

 不意に、男の殺気が消えた。

 耳鳴りにも似た感覚が女を襲う。息をすることすら忘れ、女は瞠目し──

 次の瞬間、その男は女の背後に立っていた。

「……ミナミ。立花徳次郎の様子はどうだい?」

「っ……!? げ、現在もまだ、牢におりますが……」

 情けなく上ずった声で、辛うじて女は言葉を返す。動けない。得物を持っていたところで、なにも、できない。

「牢か。警備の人員を倍に。あと、ヒーローと関わりのある者は独房へ」

「ど、独房……ですか?」

「ああ。むしろ可能なら、地理的に場所を分けた方が良い。奴らは隙あらば協力する……それは我々の、敗因のひとつだ」

 そうして彼は、ぽんっと女の肩を叩く。

「頼んだよ、ミナミ?」

「かっ……畏まりました。早急に対応いたします──」

 女は震えながら、歩き出したその男の名を呼んだ。

「──イザナギ様


【第1話『阿吽昇天』完】
【第2話につづく】


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