迷子の迷子の子犬さん(再投稿版) Part1 #黄昏二の三
その路地を抜けた先には、大正浪漫建築群が広がっている。
人呼んで──黄昏町二丁目三番地。
もしもそこに行き当たったなら、振り返らず、立ち止まらず、真っ直ぐに通り抜けなさい。さもなくば──
「──そうなります」
「言うのが遅い!」
私の説明に、目の前の犬耳少女が叫んだ。
年の頃は15歳くらいだろうか。犬耳以外は普通の少女だ。私は着物の袖口から飴を取り出すと、彼女に差し出しつつ語り掛ける。
「まぁ落ち着いて。お名前は?」
「え? あ、っと……ハナビ。てかアンタ何? なんか透けてない?」
「まぁ、その……いわゆる幽霊といいますか」
「へっ?」
驚く少女に微笑んで、私は言葉を続ける。
「私はラスヤ。あなたのように"迷い込んだ"人を守るのが仕事です」
***
……というやりとりが、だいたい5分前のこと。
私とハナビは今、全力で逃げている。
「ちょっと!? 守るんじゃなかったの!?」
「いいから走って! 死にたいんですか!」
「アンタは楽そうでいいわねェッ!?」
怒鳴りながら走るハナビの横を、私は彼女と同じ速度で浮遊……というより飛翔する。
追ってくるのは、カラスのような羽根が生えた葡萄色のドーベルマン、それも複数体。それらは我々を捕らえるべく、吠え声と共に地を、壁を、空を駆ける。
飛びかかってきた一匹の喉に小太刀を突き立てて、私は声を投げた。
「ハナビさん、そこの角を右に!」
「はヒぃっ!」
彼女は言われた通りに角を曲がる。しかし──その先には、3匹の羽ドーベルマンが待ち構えていた。
「ゥヒァッ!?」
「なっ!?」
狭い路地で急停止したハナビと私を、獣らが取り囲む。前方に3匹。後方には10匹以上。
「莫迦な。<逢魔>が、待ち伏せを……?」
「おーま……?」
私の呟きに、ハナビの犬耳が不安そうに倒れる。獣らが包囲の輪をじりじりと狭め、今にも飛びかからんとした──その時。
「走れ、ラスヤ殿ォーッ!」
──野太い声と、銃声。前方3匹の頭部が血煙と消えた。
(つづく/799文字)
以前書いたこの記事のリメイクです。レギュレーション違反になるのでプラクティスとして投稿しました。
元々は「質問箱公式からの質問(=虚無質問)がきたら更新する」っていう企画だったんですけど、虚無質問の相手するのに飽きたので普通に更新しようと思い筆を執りました。
連載にする予定です。逆噴射期間が終わったら続きを書きます。
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