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マスクドライダー ふゆやすみスペシャル『聖なる夜の死闘!』 #パルプアドベントカレンダー2019

 時は世紀末。悪の秘密結社ジャーネンにより、人類に滅亡の危機が訪れていた。
 その魔の手から世界を救うべく、ひとりの男が立ち上がる。
 彼の名は大紋寺豪(だいもんじ・ごう)!
 鋼の鎧に身を包み、二輪の馬で敵を狩る、孤高の戦士である!

 人は彼をこう呼ぶ! マスクドライダーと!


マスクドライダー


ふゆやすみスペシャル
『聖なる夜の死闘!』


「チェィッ!」

『ぬぅぅっ!?』

 私の渾身の飛び蹴りを、その怪人──否、巨人は、身を仰け反らせて回避した。

 然り、巨人である。真紅のその身体はヒトの形をしているが、高さだけで言えば私の10倍……いや、20倍はあるだろうか。重さは──考えたくもない。呼吸のたびに空が揺らぎ、歩くたびに大地が震えるほどの、巨人。もはや怪獣といっても過言ではない。

 赤き巨人は、空中にいる私に向かって平手打ちを繰り出した。圧縮された空気と共に、壁の如き掌が迫る──しかし!

「甘いッ!」

 私は空中で身を捩り、その指の間をすり抜けた。そしてすれ違いざまに巨人の中指にしがみつき、がっちりとホールドする。

『なっ……!?』

 巨人の驚愕の声を聞きながら、私は全身に力を込め、その指を鯖折りめいて折り曲げる!

「食らえッ! ライダー・バンプアップ!」

『ぬぐぅぁっ!?』

 ミシィッと関節が軋む音が響き、巨人が悲鳴をあげる。私はマスクの下で牙を剥き、笑ってみせた。

「やはり、巨人とはいえ人型に作られているようだな! その急所も人体と同じと見た!」

『あだだだだっ……! やめろっ! このっ!』

 巨人はひとしきり苦しんだ後、蚊を潰すかの如く手を振り下ろす。

「フんッ! ライダー・フライッ!」

 私は手が打ち合わされる寸前でホールドを解除し、再び空中へと躍り出た。同時に私のマフラーが展開し、私はムササビのように空を滑る。

『ああもう!』

 そんな言葉と共に、巨人はじたばたと手を振り回す。しかし発生した風に乗ってふわりふわりと舞い踊る私に、その攻撃は当たらない!

「ふんっ! ジャーネンの巨人、破れたり!」

 巻き起こる風により、私のベルトに据え付けられた風車が高速回転をはじめた。生み出された風力エネルギーにより、私の全身に力が満ちてゆく! 私は空中で、全エネルギーを右脚へと集中させた。そして──

 必殺の蹴りを、繰り出す!

「食らえッ! マスクドライダー・キィーック!」

 風の鎧を身に纏い、流星の如き跳び蹴りが赤き巨人へと迫る!

 しかし──その時、巨人の動きに変化が生まれた。

『あっちいけ! しっしっ!』

 巨人は、被っていた帽子(だろう、多分)を手に取り、ハエ叩きのように振り回したのだ!

 発生した乱気流により、私のマスクドライダー・キックの推進力が半減する。そして──直後、私の全身を、衝撃が襲った。

「っ──ぐあっ!?」

 私の視界が真っ赤に染まる。

 それが巨人の帽子の色のせいだと気付くころには、私の身体は布のような素材にすっぽりと包まれていた。

 抱擁は一瞬。直後、その柔軟性に由来する反発力が、私の身体を弾き飛ばした!

「っあぁっ!?」

 私の身体は錐揉み回転しながら墜落、地面に強かに激突する! ドンッガンッと繰り返し地面にバウンドしてもなお、その勢いは衰えない!

 全身がバラバラになったかのような衝撃──否。

 揺れる視界の中で、私は確かに見た。

 両腕が肩から捥げて宙を舞うのを。

 下半身が腰から外れ、地面を滑ってゆくのを。

 ──私の身体は、文字通りバラバラになった

「ッ──がっ──!?」

 奇跡的にお別れを免れた頭部と上半身は、勢いそのまま壁に激突。痛みはないが、呻くのが精一杯だった。

 上半身は更に壁に弾かれ、再度浮き上がり、出鱈目な回転と共に宙に投げ出される。

 行先は、近くにあったクリスマスツリーだ。球状のオーナメントに激突し、それらをぶち破りながらさらに飛び、トナカイのオーナメントにぶち当たり──そこまできてようやく、私の身体は進むのをやめた。

「ッ──ぐ──」

 そのまま重力に引かれ、私の身体は大地に堕ちて。

 とうとう上半身と首が離れ果て、私の意識はそこで途絶えた。

***

「まったく……」

 バラバララッっと乾いた音と共に、ソフビ人形のパーツが床を転がる。その様子を見ながら、ひとりの男が盛大なため息をついた。

「……動く玩具はよく見るが、喧嘩を売られたのは初めてだな……あ痛てて、本当に折れるかと思ったわい……」

 ふかふかの真っ赤な服を身に纏ったその男は、同じく真っ赤な帽子を被り直した。そしてその豊満な白い髭を整えると屈み込み、足元に置いていた白い袋を手に取る。

 ──彼の名はサンタクロース。聖夜の使者である。

「なんにしろ、ケンジくんが起きなくてよかった。さて、と──」

 彼はクリスマスツリーへと歩み寄りプレゼントを設置した。手際よく箱を積み上げた彼は、立ち上がってツリーを観察する。

「……ううむ、オーナメントがいくつか壊れておるな。マスクドライダー人形め、暴れすぎじゃ」

 ぶつくさ言いながら、彼は白い袋から新品の球状オーナメントを取り出して交換した。さらに辺りを見回して、バラバラになったマスクドライダー人形を拾い集める。

「この人形……」

 それを直しながら、サンタクロースはまじまじと人形を観察する。見覚えがある。これは確か、この家の子にあげた人形だ──何十年も、前に。

「……九十九神になるほど、大切にされとるんじゃのう」

 ソフビ人形の身体に首をはめ込んで、サンタクロースは立ち上がる。クリスマスツリーの根本、プレゼントの山の上にヒーローを置くと、彼は踵を返して歩み出した。

「む……ここは……?」

 戸惑うような声が彼を呼び止めた。サンタクロースは振り返り、小さなヒーローに手を振ってみせる。

「メリークリスマス、マスクドライダー」

 直後、その姿は煙となって消え失せた。

「……負けた、のか、私は」

 サンタクロースを見送ったマスクドライダー人形は、その場で大の字に寝転んだ。顔を向ける先には子供用のベッド。そこで眠る少年・ケンジの静かな寝息をその耳で捉え、マスクドライダー人形は安心したように息を吐いた。

「メリークリスマス、か」

 呟いたマスクドライダーの脳裏を、過去の記憶がよぎる。

 ──やったぁ! マスクドライダーだ!
 ──うん! だいじにする! ずっといっしょにいる!

「──ずっと、守るぞ」

 幸せな記憶を反芻しながら、マスクドライダー人形は瞳を閉じる。

 ──静寂が訪れた子供部屋に、シャンシャンと鈴の音が響いていた。


(おわり)


▼あとがき▼

 ドーモ、 #パルプアドベントカレンダー2019 の言い出しっぺ&12月17日担当の桃之字です。

 昨日の昼に思い付きで立ち上げたこの企画、「言い出しっぺが身体を張るぜ!」ということでパルプ早撃ちにチャレンジすることと相成りました。よりによって昨夜は会社の忘年会だったので正直ヤバかった。

 せっかくのアドベントカレンダーなのでクリスマスネタにしようと考えていたんですが、いかんせん時間もなかったので手癖で書けるヒーローアクションものにしてみました。要素として自分の好きな九十九神も入れつつ、赤き巨人(サンタクロース)vs小さなヒーロー(九十九神)のショートショートに仕立てております。ちなみに「ふゆやすみスペシャル」とか言ってますが本編はどこにも存在しません。

 4000文字くらいのつもりで書いていたんですが、テンポ感やら展開やら、そしてなにより納期までの時間を鑑みて、最終的に2500文字に落着。楽しんでいただけたなら幸いです!

 さて、 #パルプアドベントカレンダー2019 は今日からはじまり! ここから毎日パルプが読めるよ! ヤッタネ!

 明日は『ダンジョンバァバ』や『ジュディ婆さん』などのスーパークールババァパルプに定評のあるパルプスリンガー・ジョン久作さんです! お楽しみに!


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桃之字/犬飼タ伊
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