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変身がはじまるとき

 傷ついた夜、無理して笑うのでもなく、絶望して泣くのでもなく誰にも電話をしないで歌っていると、誰かを元気にするのに、静かに頑張っていても駄目だった自分みたいなものばかり記憶にとどめて集めて勝手に疲れているわたしに気が付いたから、疲れたら、疲れているあなたの疲れを取りに行くんだった、と思い出して他人の疲れを取りに行けるわたしの心に変身しはじめる。

 変身は化粧でも服装でもなくて、誰かよ、あなたよ、わたしを救ってよ!気付いてよ!とかいうわたしの悲鳴を、わたしが、あなたを気付いて救えるにはこんな場合ではない。わたしは大変疲れているんだけれど、疲れているのは恐らくわたしだけではない。疲れている人間が疲れている人間を、更に疲れさせるのは簡単だけれど、元気にさせるのは容易ではない。と考えているうちに始まる。

 幸いわたしは変身の結果「どうしたんだ。良いことでもあったのか」「一緒に遊びたいんだが忙しいのか」「恋人が優しい人に変わったのか」などと訊ねられる様相になっていることを外で知って、やっぱり、疲れていたんだ。生きるのは疲れることだとは知っていても、意外と自分の疲れにも人の疲れにも無頓着だったと確信できる自信で傷も駄目だった自分の記憶も吹き飛ばして完全に変身を遂げて、疲れを取ろうとし続けた結果誰も彼もあなたも笑ってわたしの生きる疲れまで全部吹っ飛んでしまった。

 我が意を得たり!わたしは悲しげな気配のする日には疲れて悲しくなっているのだから、行けるものなら他人の疲れを取りに行く。
 これからも無頓着で、何度も変身しなければわからないのでしょうが。

 変身を遂げると
 悲しい言葉ばかり頭に浮かんでいたのに
 帰り道には空を見上げて
「三日月になる
 目を描き入れると、笑っている口のようになる
 空の顔の部分はそれだけで
 あとは全部体なの
 顔が小さ過ぎて
 なんか面白い」
 なんて考えている


難しいです……。