VTuberの歌枠配信と楽曲の権利のおはなし

[2022.2.2 追記] ちょこっとだけ修正と、最後に少し重要な補足を行いました。
[2023.6.4 追記] NexToneについて追記しました

はじめに

前からちょいちょい思ってることなんですけど……VTuberが歌枠で配信したり、あるいは歌動画をアップロードしたりするとき、たまに「その曲は歌えない」「手続きがあってアップロードに時間がかかってる」みたいなこと、言うじゃないですか。
で、そういうときのリスナーの反応見てると、実際VTuberが裏で何やってるか、全然知らないんだろうなぁ、って感じの人が多いんですよね。誰かが教えてくれるものでもないので、当たり前っちゃ当たり前なんですけど。

僕も別にその筋の専門家ではないけど、JASRACとか曲の権利関係に関わる機会がこれまで結構あって知識はそこそこあるので、この機会に書き下しておきます。ぜひ参考にして頂ければ。
(ここ間違ってるよ!っていうツッコミもお待ちしております。ただし、わざと説明を簡略化して正確さを犠牲にしているところはあります。)

楽曲の権利には2つある

まずもって、楽曲を配信で使おうとするとき、クリアしなきゃいけない権利には大きく分けて2種類あります。この区別がついてない人がそもそも多いです。

まずは、著作権。これは何かと言うと、「詞」と「メロディ」に関する権利です。作詞をした人と作曲をした人が作者(著作者)という扱いになります。

で、この著作権に含まれない権利として、歌を歌った人、そしてオケを演奏した人の権利があります。これは著作権ではないけど隣り合わせの権利、ということで、著作隣接権という呼ばれ方をします。

つまりVが歌枠配信をするときは、「著作権」と「オケの権利」の2つをクリアしないといけません。

著作権をクリアにするには

配信で曲を流すには、まずは著作権をクリアにしないといけません。この許諾がないとそもそも曲をかけることができないので、必須です。

で、なにをやるかといえば、著作者である、作詞者・作曲者の2人に使用許可を取るのです。これが基本のキです。

ただし、これをいちいちやってると面倒くさくて、許可を取る方も許可を出す著作者も大変です。
ということで、ここで登場するのが悪名高きJASRACや、その他著作権管理団体と呼ばれる団体です。JASRACは世間では悪い方面でしか名前が出ませんが、利用許諾の手間を省くという点では大いに世間の役に立っています。

このへんの仕組みがどうなっているか、具体的にいうと、
1. 著作者はJASRACに曲を信託します。曲の2次使用(YouTubeやテレビ・ラジオでの使用、カラオケなど)における全権を著作者から委託されます。
2. JASRACは、2次使用者から一律にお金を取り立てる代わり、申請されれば(+使用料をちゃんと払ってもらえれば)必ず曲の使用を許可します。JASRACが使用を拒否することはありません。
3. 適当な時期に、JASRACから著作者に使用料がいくばくか還元されます。
てな具合。

ポイントは「金さえ払えば、JASRAC登録曲ならいくらでも自由に使える」点です。さらに言えば、YouTubeやニコニコはJASRACと提携しており、使用料を配信者の代わりに、全部JASRACに支払ってくれます。
なので配信者は、曲がJASRACに登録されているかどうかさえ調べれば済みます。登録されているかどうかはJ-WIDっていうデータベースを使えば誰でも簡単に調べられます。

あとNexToneという会社もあって、ここは株式会社だけど著作権の扱いに関してはほとんどJASRACと同じことをやってます。ネットに強くて、ネット配信の権利はJASRACでなくNexToneに信託されてるって曲も多いです。
なので、JASRACでNGでもNexToneのホームページで検索するとOKになってることも多々あります。

もし曲がどちらの団体にも登録されていないとわかった場合は、曲の作者に直接連絡して個別交渉するしかありません。ちゃんとしたレコード会社から出版されてない曲、たとえばファンメイドの曲やボカロ曲、あとゲームのサウンドトラックなんかも結構JASRACに登録されてないことが多いです。

オケの権利をクリアするには

JASRACに登録されていれば著作権はクリアされてることが多いので、下手なボカロ曲なんかより、メジャーレーベルからCDが出てるJ-POPなんかの方が本当は使いやすいんです。

ところが実際は、VTuberが配信で歌うのはボカロ曲ばっかりだったりしません?あれ、何が問題かと言うと、オケの権利関係がクリアにならないことなんです。

オケの権利、つまり著作隣接権に関しては、JASRACのように権利関係の手続きを仲立ちする団体はありません。なので、基本的に個別交渉するしかありません。
そして、CDに入ってるインストバージョンなんかはそう簡単に許諾されないし、されたとしても高額の使用料を請求されることがほとんどです。生配信はOKだけどアーカイブ不可、とか、めんどくさい条件がつくこともよくあります。

ということで、Vは正規のオケを使えないことが多いのです。
それでもここを何とかするために、Vはいくつかの手段に出る必要があります。以下、思いつく限り書き連ねてみます。

その1. アカペラで歌う
最強の手段です。オケを使わなければオケの使用で文句は絶対言われません。

その2. 自分でオケを作る or 自分で弾き語りする
この場合、オケの権利者は配信者自身になり、配信でどう使おうが、アーカイブに残そうが配信者の自由になります。
月ノ美兎委員長が最近ウクレレを手に入れて、配信中時間があれば弾き語りで歌うようになったのは、ここがクリアになったことが大きいです。
あるいは、続けて委員長の話をするなら、過去に「全部美兎」でオケを自作してV界の一大ムーブメントを作ってしまいましたが、あれもこの辺のめんどくささを逆手に取ってやったネタなのです。

その3. フリーの音源を拾ってくる
世の中にはフリーのオケを作って公開しているサイトがあり、Vの歌枠配信ではよく使われます。あと、ボカロ曲も配信には自由に使えるオケが転がってることが多いです。
ただ、サイトによっては作者を明記することが義務だったり、商用利用不可なのでスパチャをOFFにしないと使えなかったりします。曲数もそんなに沢山あるわけではないです。

その4. カラオケ業者と提携する [2022.2.2 少し修正]
最近にじさんじはDAMと提携しているようで、ライバーがスタジオからカラオケ配信をしている配信をよく見かけます。
これは強者の一手で、企業勢ならではですよね。でもたくさんのVが個別に交渉して手間と時間をかけてしまうめんどくささを考えれば、事務所が業者と提携して所属Vに使わせるのは、総合的に見ればとてもリーズナブルな手段です。

その5. リスナーにオケを作ってもらう
元々ファンメイドの曲だった、なども合わせて、たまにリスナーがオケを提供してVが歌うこともあります。
とはいえ、何曲も何曲もリスナーが提供できるわけもないので、これだけで歌枠が成り立ってるのを見たことはありません。オケを作るのも才能と手間暇が必要ですからね…

いかがでしょうか。
今後Vが歌枠で権利関係についてコメントすることがあれば、ぜひここに書いたことを参考にしてみてください。

2022.2.2 補足:実はこれだけでは完璧ではない

元々このnoteは歌枠配信を見るリスナー向けに書いてたのですが、このnoteを参考に実際に歌枠配信や歌ってみたをされる配信者の方が結構いらっしゃるようなので、そういう方向けに補足を書きました。ご参考までに。


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