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『アンカーボルトソング』がVの古参オタクに刺さりまくった話

シャニマスの新イベントコミュ『アンカーボルトソング』、圧倒されてしまった。
見始めたときは、ああ、3人とも忙しくなってすれ違いが増えて……、という「アイマスあるある」なテーマなのかな、と思っていたのだが、実際はそこから大きく踏み込んだ内容で、本当に驚いてしまった。

と同時に、Vの古参オタクとして、とんでもないものを見せられたような気がした。同じ思いをしているVのオタクは沢山いるのではないか。
そのへん、自分も踏み込んで書いていきたいと思う。特にシャニマスは知らん、というVヲタも読めるように書いていく。
以下、『アンカーボルトソング』の内容をがっつりネタバレしているので注意。


あらすじの雑なまとめ

ソロでも人気を獲得したユニット『アルストロメリア』の3人は、それぞれのソロ活動の中で、新たな仕事仲間とそれぞれに仲良くなっていた。そして、それぞれに仲良くなった者同士で写メを撮り、SNSに投稿したりしていた。
ときには『匂わせ』と称して、わざと同時にSNSに投稿して仲良しアピールをする、なんてこともしていた。それを番組制作の人間に勧められて意図的にやっていたのだ。それをファンが喜ぶと知っていて、番組の人気を上げるために。

それに歓喜するファンももちろんいた。それを意図してやっているのだから当然だ。
一方で、彼女達の古参ファン、つまりアルストロメリアのファンは、もやもやした気持ちを抱え、そのネガティブな気持ちを口々にSNSに投稿したりしていた。俗に言う「お気持ち」だ。
当人たちは、それを読んで心を痛めていた。

そんな中、プロデューサーの一計により、久々にゆっくり集まって一緒にカラオケに行った3人は、そのうちお互いの本当の気持ちを語り始めた。
そして気づいたのだ。お互いがバラバラに仕事して、寂しい思いをしていたのは自分達だったことに。

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そして、こんな提案が飛び出す。

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「アルストロメリアが一緒にいて欲しい」と願う当人たちが、その思いに応えるために「アルストロメリアは今一緒にいるよ」と『匂わせ』、つまりSNSに同時投稿するのだった。

関係性を商品とすること

この話がまず凄いのは、アイドル間の関係性がファンにとってのコンテンツ、すなわち商品になること、そしてそれを時には「プロデュース」する側が演出していることをきっちり描ききっていることだ。
つまり、いわゆる「営業」の存在を暴き出している。しかし別にそれを告発しているわけではない。ネガティブな側面もあるが、ある種の必要悪として「あって当然」な位置づけで描いている。

そして、アイドルのユニットというのは人工的なもので、それ自体がやはり商品だ、ということも描き出している。
アルストロメリアは「仲良し3人組」として売られ、実際に中にいる3人は本当に仲がいいのだけれど、結局どうやっても3人の「仲良し」という関係性は、商品としてこそ成立しているものなのだ。

そのことに3人が気づいてしまう。だから、自分達が仲良いままでいるためには、自分たちの仲の良さを商品にし続けるしかないと理解するのだ。
もし3人ともすぐにアイドルを卒業して、人生をセミリタイアでもして余生を過ごすようになればこんなことをせずとも仲良しでいられるだろうけど、そうでない限りはきっと3人は別々の仕事で忙しくなり、それぞれの人間関係に埋没していくだろう。恐らくは、少しずつ疎遠になっていくはずだ。

そういう意味で、とても残酷な話だった。
アルストロメリアを題材にこれを描くのは、本当に残酷だと思った。『薄桃色にこんがらがって』のようなガツンとした衝撃はないけれど、真綿で首を絞めるような苦しさと、切なさと、はかなさがあった。
これを『アイマス』シリーズの中で描いたシャニの制作陣は本当にすごいと思う。

VTuberの話と照らして

以上の話を踏まえて、Vのファンとしては、あまりの解像度の高さに驚いた。多くのVの古参ファン、特ににじさんじの古参ファンには、こういう事を今まで考えたことが一度はあったのではないか。

にじさんじは恐らくVの関係性を売りにした最初の事務所だったと思う。
JK組(月ノ美兎、樋口楓、静凛)の成功に引っ張られる形で、ある時期からは同期は1つのユニットとしてデビューするのが習わしになっている。シャニマスと同じ形だ。
彼ら彼女らはソロで活動するのが基本だが、特に初期は同期で組んだユニットで活動することが多い。

しかし、ソロで活動してると他の人と仲良くなって、その人達と新たなユニットを組んで活動を始めて……ということが頻繁に起こる。
単に同じユニット、というだけならまだしも、ユニット内の仲の良さが人気の秘訣になったりする。俗に言う「てぇてぇ」だ。

それで、古い「てぇてぇ」に良さを見出していたファンは、新しい「てぇてぇ」にもやもやした気持ちを抱えることが往々にしてある。
これは界隈では厄介として扱われることが多く、実際、この気持ちをSNSなんかで表明してしまうのは厄介だ、と僕も今でも思う。本人の目に留まる可能性も大いにあって、本人の自由な活動を遮ることにもなりかねないからだ。

しかし、この『アンカーボルトソング』がすごいのは、そういう気持ちを肯定していて、それどころか、実は本人たちも同じ気持ちを抱えているかもしれないんだよ、という可能性を示したことだ。

実際、こんなことをアイドルに言わせてしまっている。

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これは、関係性オタクにとっては「救い」なのだと思う。

そして、『匂わせ』がある種の営業行為であることも認めつつ、もしかしたら彼女達自身が本人たちの意思で込めた「祈り」なのかもしれない、ということもこのシナリオは同時に示唆した。「いつまでも一緒にいられますように」という祈りだ。
本人達が「ナマモノ」(ここでこういう表現を使うのがいいのかわからないが)であり、いつかはなくなってしまうものをコンテンツとして売っているからこそ、「自分達は今一緒にいたよ」「私達は今この瞬間仲良かったよ」という永遠に残る思い出を残し続けることで、時の流れに抗おうと彼女達はしている。僕らが『匂わせ』と思っているものの中には、そういうものも実は紛れているかもしれない。

そういえば、で思い出したんだけど、月ノ美兎委員長がにじさんじアプリ3.0のお披露目でJK組が集まったとき、3人でおそろいのユニット衣装を作ろう、と提案したことがあった。あれも今思うと、この種の「祈り」だったのかもしれない。初期こそJK組は彼女らの主な活動の場だったけど、今は3人が本当にバラバラに活動していて、3人でいる機会はかなり減った。だからこそ、委員長は3人の絆を今一度確かめたかったのかもしれない。


委員長はこのイベントコミュ、どういう風に受け止めたんだろう。
聞いてみたい気もするが、正直、聞くのが怖いな、とも思ってしまう。


【追記】
同士が現れました。
このnoteの方がVのヲタクの生々しさが味わえます。


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