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映画レビュー『おくりびと』 隠されていたメッセージとは!

#映画 #映画レビュー #納棺
#おくりびと #映画鑑賞
#日本アカデミー賞
去年の事、母が家で骨折し歩けなくなる。治療を続けていたが、その矢先にベッドから転落。こうなると家族としても、どうして良いかわからなくなった。そこで、地域包括センターへ電話をしてみた。

担当者がすぐに自宅まで来ていただき、ケアマネージャーの紹介をうけ、施設への入所がきまる。介護保険制度の意味が、ここでようやく私にも飲みこめた。この制度がなかったら…と思うと本当に助かったと感じた。

母の兄弟はすでに全員が亡くなっている。末っ子だったとはいえ、病弱だった母が、ここまで元気でいられたのは、日ごろの運動や食べ物の知識だったのだろう。しかし、すでに体調落としている母。次のことも考えておくべきだろう……そんな思いで今はいる。

映画『おくりびと』、日本で公開されたのが2008年。その13年後の2021年になって、中国で大好評を博したという。中国人にウケた理由は何だったのか!ちょっと気になる。

日本と同じように「死」を忌み嫌う文化があるようだ。人々は、死を隠すことで日々生きている。しかし、当然のごとく、困る事態も生じてくる。命がつきようとしているとき、それを周囲に見せまいとする行為、これが最後の「生活の質」を落とすという。つまり、病状や死後について家族にも相談しないためだが…。

死をオモテからあつかった『おくりびと』、納棺の所作の美しさには、驚愕するものがあった。「死」は、我々にとって身近なものであるはずだ。それが中国の人々の心にも届いたということだろう。

*あらすじ
(見た人は飛ばしてください)
物語は、オーケストラ「ベートーベン第九交響曲」の大合奏から始まる。このオーケストラで、チェロを担当していたのが、主人公の大悟(本木雅弘)。しかし、あっけなく解散となってしまう。職を失って、気力もなくなった大悟だが、家にたどり着くと、あっけらかんとした妻(広末涼子)が帰ってくる。

ニ人は話し合いのなかで、大悟の郷里・山形へ引っ越すことに…。山形には、亡くなった母が残してくれた家があった。仕事を探す大悟だったが、1枚の折り込みチラシに目が止まる。そこには「旅のお手伝い」という文言が。これだと、翌日その会社にむかう大悟だった。

NKエージェントの社長・佐々木(山崎努)との話し合いで、納棺の会社であることを知った大悟。一旦は「やめよう」と思ったが、今日の日当として5万円を手渡されてしまう。「とりあえずやってみたら…?」の社長からの言葉に、うなずいてしまった。

妻に隠して、仕事を覚えていく大悟だったが、ある日のことバレてしまった。妻は大悟をおいて、一人東京に舞い戻る。数ヶ月後、妻はひょっこり戻ってきた。赤ん坊ができたと言って…。

そんな中で、知り合いの銭湯のオバちゃんが急死したというお知らせ。妻ともども駆けつける大悟。社長から「やってみるか」の声かけに、妻のまえで驚くほどキレイな所作で納棺をおこなう。妻も、大悟が軽い気持ちで取り組んでいないことを十分に理解したようだ。

平穏がもどったある日、一通の電報が届く。それは大悟の「父親の死」の知らせだった。……感動は、この父親との対面から始まる……。

*冒頭一発目からの仕掛け!
……ベートーベンの第9交響曲……
大作曲家、ベートーベンの最後の交響曲は、ドイツの詩人シラーの『歓喜に寄せて』を題材にしたものだ。ベートーベンの生きていた時代、ヨーロッパの人々のは自由と、それを阻止する勢力との競りあう世界だった。

いくつもの戦さがあり、人々は憎しみあう。そして神の存在やその力にも疑いの目が向けられるようにもなる。そのアンチテーゼともいうべきものが、この「歓喜の歌」だった。

第4楽章になって、初めて合唱とソリストの歌がながれる。第1楽章から第3楽章までの主題に対して、まず不協和音が流れ「NO、違う」と訴えかける。そして、チェロとコントラバスが「そう、それだ」と賛同する仕掛け。一つずつ楽器が加わり増えていく。最後には、すべての楽器と歌い手が音を合わせて、歓喜の世界に入る。

歌詞の内容を要約すれば、
「美しい神々を!不思議な力が再び結びつける。わけ隔てていたものを。すべての人が兄弟となる。」

そう、この『おくりびと』、主人公と妻との関係、愛人を作っていなくなった父と主人公との関係、さらに友人との…。はじめNOと拒絶されるが、少しずつ打ち解け、最後には心を通わせる!そんな物語になっていた。意味もかんがえず聞いていた第九。しかしこの物語そのものが「第九」だったということ、これを知って驚いた。

まとめ
この映画で納棺を指導したのが、納棺師「木村光希」氏の父親だという。木村氏によると、納棺の所作については、人それぞれ、玉石混交のようだ。「父の所作が一番美しく見事だった」と自慢する木村。もしそうだとしたら、この映画の成功は、木村氏の父の存在が大きく関わったのでは!…と思った。

いま10人に8人が、病院で亡くなっている、そんな時代。納棺師の出番はなく最後は看護師によるものらしい。納棺という美しく静謐な儀をもう一度考えてみたいと思った。

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