残留
かの鎖骨の窪み
指でなぞれば肋骨の太さも数も
愛すべき触感として
この目と手のひら、両の指、
わたしの裡に残る愛しさ物悲しさ
夢で違う男の名を叫ぶことを怖れ
眠らずに居るということ
かの夫人の如く
外科手術の麻酔をも拒むという
それが、今の男への誠実、情愛たろうか
少なくとも
姑息な防御ではない
卑怯な虚偽ではない
だって
今の男を
わたしは愛しているのだから
それ以上に
消えた男は、無敵だということだ
不変であるということだ
記憶の美化、維持
でっぷり太ったお腹と鎖骨の見えぬ巨体で
よぅ!と
わたしの前に現れてくれないものか
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