吾が輩の名はバロンである
いや、正真正銘、目と目が通じ合い、数多の猫がにゃおにゃお鳴いている中、
彼女は、ボクに手を差し伸べた。
彼女は、ボクの光沢ある黒い毛並みと気品ある目の輝きをうっとりと見つめ
「あなたの名前は・・男爵、バロンよ」と宣言したのだ。
それが二年半前。
彼女の周りのヒトが、「バロンだって~!?どこが男爵よ、熊じゃない」と
笑ったのをボクはしかと観た。
が、バロンなのだ。
ボクより前に住み着いている爺さん猫の名を聞いたとき・・やや、気落ちはした。
彼の名は・・・マロンであった!
ま、細かい点は気にするまい。僕は男爵だ。彼は栗だ。
カタカナ表記が近いというだけなのだ。そう思いたい。
マロン翁は、牙がかけ、草臥れている。已む無く、ボクが見回りをする任を担った。
ボクは喧嘩が嫌いだ。はっきり言おう、僕は平和主義だ。どうして縄張りのボスなど居るのか、分からぬ。
がーボクがやらねば誰がやる。仕方なく、深夜一時間弱、サクサクと見回りをする。
最近、強面の黒白猫が出張って来る。観るからに強そうだ。いや、強いのだ。
皆が、平伏せ、彼は、堂々と
我が家の庭にまで侵入するのだから。
迷った。不可侵条約など成立不可か!?
むむ・・・一応、挑んだ。
負けた。
以降、ボクは彼と友だちになろうと試みている。
今夜も来るだろうか・・・はむ、ボクは家来にならぬ。バロンだ。
が・・辛抱する木に実がなる・・とか何とか、そうだ、諺の通り、彼の戦意が堕ちる日を待とう。
ボクには妹が二人出来た。
彼女がまたしても連れて戻った日、何の覚悟もせず寝そべっている僕に、
妹Aは、前足で挨拶。礼儀を知らぬ赤ん坊だ。
妹Bは、ボクの胸にセクハラだ。何やら探している。
げ・・ボクからおっぱいは出ぬ!止めろ~~~っ!
ボクは、猫の女の子が嫌いだ。
しかし待てよ、何故、妹が来たのだ?
もしかしてだけど~いや、ベタな流行文句が沸いて来た・・
もしかしてだけど~
彼女は、ボクと、あの妹たちとの恋を目論んでいるのか?
ヤダ・・ボクは子どもなど要らぬ。
ボクは、彼女の守護神、男爵、唯一無二のオトコだぁ~~
にゃ?
小首かしげて、彼女を観る。
彼女はいつもと変わらぬ目で、ボクに微笑む。
むむ・・分からぬことは分からぬ。
考えるのはよそう。
マロン翁、食べろよ、最近、痩せて来たぜ?
ボクが肥満だと!?
失敬な!
我輩は・・紛れもないバロンなのだ。