見出し画像

クラブ活動と私#8:貧乏学生とお嬢様

※前回までのあらすじ※

『クラブ活動と私』と銘打っておきながら
ちっとも部活してないサブタイトル詐欺。

これまでのハイライトはこちら。

K君・・・私の幼馴染。なぜかモテる。朴念仁。
氷子先輩・・・K君に想いを寄せる情熱家。大人っぽい。
隼人はやとちゃん・・・新入部員。氷子先輩同様K君に想いを
寄せる”坂道系”の美少女。当記事の中心人物。
私・・・筆者。ヘタレんぼう将軍。


隼人ちゃんからの相談を受け、お互いの恋愛事情に
ついて協力し合うと決めたまではよかったものの、
これ以降私は色んな問題に直面する羽目になった。

まず第一にK君のことについてだ。

K君については隼人ちゃんより前から氷子さんにも
相談され、すでに協力体制を取っている。

トライアングルの中に閉じ込められた格好の私。

それぞれにちゃんと話をすべきかどうかあれこれ
考えていたところ、問題は自然解決してしまった。

私の知らないところで、当事者同士で話し合いが
行われたのである。
氷子さんも隼人ちゃんも割と積極的なタイプだ。
第三者の私でも感づく事を、恋のライバル同士が
気付かないハズがないのだ。

『どちらが上手くいったとしても恨みっこなし。』
紳士協定ならぬ淑女協定が締結されたのだった。

氷子さんは言おうにも言えない立場にいた私にまで
気を使ってくれた。
氷子さんにはお世話になりっ放しだ。
まったく頭が上がらない。


二つめの問題は隼人ちゃんの性格だ。

少々”我が強い”ところがあるのだ。思い通りに
行かないとすぐに機嫌を損ねる傾向にある。

私達は部活帰りに途中下車して、某有名私立大学の
周辺の”学生街”へ遊びに行くことが多かった。
隼人ちゃんからはK君も含めて皆で遊びに行こうと
いうお誘いが頻繁にあったのだが、他の面子は
ともかく肝心のK君がなかなか誘いに乗ってこない。
こうなると残された側はなかなか面倒な事になる。
どうにかこうにか宥めすかして、ご機嫌を取る
必要が出てくるのだ。
彼女の友だちで同じく新入部員の光流みつるちゃんも
「あのコはアレさえなければ・・・」と困り顔。

こうした経緯から、誰が呼んだか彼女は
”お嬢様”と呼ばれるようになっていた。


三つめの問題は私の懐事情である。

ただでさえ普段からゲーセン通いなうえ、
先述の通り”お嬢様”からのお誘いが頻繁に来る。

どこぞの赤い人が
「財布がもたん時が来ているのだ!」
と言っていたかどうかは定かでは無いが、
部活がある日はほぼ毎日のようにビリヤード場に
連行されるのである。

当初はK君を誘うのが目的だったハズなのだが、
いつの間にか”ビリヤードに行く事”自体が目的に
すり替わっていて、なんだかんだで二人だけで
ビリヤード場に出入りすることが増えていった。
通っていたビリヤード場ではもはや常連扱いだ。

一般的なビリヤード場は台の表面に張られた
クロス(ラシャ)がキズつくのを懸念して、
ジャンプショットや”マッセ”(キューを縦に構えて
手玉に急激な変化をかける打ち方)などは
禁止されているのが普通だ。

私と彼女はそれが”公認”されていた。
上手い学生アルバイトの人達からレクチャーまで
受け、好きに打っていいと店主のおばちゃんに
言われていたのである。
とはいえ、流石に怖くて”普段は”打てなかったが。

凄腕の人たちに囲まれて大会にも引っ張り出された。
終いにゃマイ”キュー”まで買ってしまった。
私自身ハマっていたので別に構わないのだが…。

やや話が脱線してしまった。
そんなこんなで私のお財布は常にピンチであった。

え?ゲーセン通いをやめたらいい?

やめられるくらいなら苦労はしないのである。

そして最後のひとつ。
これが私にとっては一番『困った』問題だった。

隼人ちゃんは”距離感が近い”のである。
この距離感には心理的と物理的、両方の意味が
込められている。

まずは心理的な距離感。
彼女は誰とでもすんなり打ち解けるタイプだ。
そしてある程度仲良くなると遠慮なくズケズケと
モノを言ったり、あれこれ聞いてくるようになる。

仲良くなるキッカケになった花博の観覧車で
感じた”圧”がコレだったのだ。

そして物理的な距離感だ。
良く言えば”人懐っこい”というところだろうか。
文字通り人の”懐”に飛び込んでくる。

私は人一倍汗っかきなので、出来ればパーソナル
スペースを他の人以上に広く取りたいのだが、
彼女はそんな私の”ATフィールド”を易々と
突き破ってしまう。

それだけならまだいいのだが、彼女の場合
そこに込められた『破壊力』がまた困り物なのだ。

何せ彼女は色んな意味で”ルックス”がいい。
詳細はあえて伏せるが、彼女のクラスが体育の
授業の時間になると、窓際の男子がちょっと
ザワつくレベルである。

いくらお互い他に想い人がいるとはいえ、
そんなコが何の気なしにベタベタ触って来るのだ。
意識するな、というほうが無理だろう。
ただでさえ思春期の、ヘタレ男子なのである。

皆でカラオケに行っても途中で「ちょっと寝る」と
私のヒザを枕に寝始める始末だ。
身動きが取れず、困り果てて光流ちゃんのほうに
目をやる。光流ちゃんはただ首を振るだけである。
え、あの、いや、たすけて・・・。

何度か本気でカン違いしそうになったし、
実際周りからは何度となく誤解を受けた。
それはそうだろう、いつもそんな感じで
2人で(たまに他の人も巻き込んで)毎日のように
ビリヤード場に出入りしたりしているのだから。

それでも彼女の視線はK君にしか向いていないのが
分かっていたから割り切れたところがある。
そうでなければ私の心情はどうなっていただろうか。


こうして高校2年の春以降、私は嵐の吹き荒れる中
ビリヤードの腕を磨き上げていたのであった。

嗚呼、今月もお小遣いがキビしい・・・。
そして聞こえるいつものお誘いの声。
「K(私)さん、ビリヤード、行こっ!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?