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『必ず当たる占い師の話』:ショートストーリーと私

今とは別の世界、別の時間のおはなし。

むかしむかし、あるところに平和で豊かな
王国がありました。
街はたいへん賑やかで、近くの田畑や森で採れる
食べ物がとても美味しい、おとぎ話に出てくる
理想郷のような美しい国でした。
そんな王国を治める国王さまは、国の人々から
慕われ、子供から大人にまで人気がありました。


ある日、王国に一人の占い師がやってきました。

占い師は言いました。
「ワタシの占いはハズれたことがありません。
アナタも占ってみませんか?」
占い師は自慢気に笑いました。
どこから来たのかもわからないその占い師を、
始めは誰も信じていませんでした。

しかしある時のこと。
一人の裕福な商人が占い師を頼ってやってきました。
「大切な指輪を失くしてしまった。あれは
お父上からいただいた大事な形見の品なのだ。
どこに行ってしまったのか占って欲しい。」

占い師は何やらブツブツとおまじないのような
言葉をつぶやきながら、水晶球をのぞき込みました。

占い師は言いました。
「ネコを飼っていらっしゃいますね?指輪は
どうやらそのネコが飲み込んでしまったようです。」
占い師は少しだけ悲しそうな表情を浮かべました。

商人は「なんと・・・。」と驚きながら、 
ゆっくりと屋敷へと戻っていきました。

やがて商人は今度は大急ぎで占い師のもとへと
やってきました。
「ありがとう!指輪が見つかったよ。キミは
本当によく当たる占い師だ。街のみんなにも
そう伝えておくよ。」
そう言って手に持った小袋いっぱいの金貨を
占い師に渡しました。

占い師は言いました。
「ほらね?ワタシの占いは必ず当たるのです。」
占い師はニヤリと笑いました。

占い師の評判は国中にひろがり、大変な人気者と
なりました。
その人気は国王さまと同じくらいかもしれません。


噂を聞きつけた国王さまは、この占い師を
お城へと招きました。

国王さまは言います。
「そなたの占いは必ず当たると聞いた。
それは本当か?」

占い師は言いました。
「えぇ、国王陛下。ワタシの占いは今まで一度も
ハズれたことなどございません。よろしければ
国王陛下も何か占ってさし上げましょうか?」
占い師はさも自信がありそうにほくそ笑みました。

少し間を開けて、国王さまは占い師に言いました。
「・・・では、ワシが今何を考えているのか、
そなたの占いで当ててみてくれ。
当たれば何なりと褒美をやろう。」

占い師はうやうやしく礼をすると、何やらブツブツと
おまじないのような言葉をつぶやきながら、
水晶球をのぞき込みました。
かすかに笑みを浮かべていたその表情は、
やがて見る見るうちに引きつっていきます。

占い師は呻きました。
「へ、陛下・・・こ、こ、これは、なんと・・・。」
占い師は笑っていませんでした。

国王さまは言いました。
「どうした?そなたの占い、必ず当たるので
あろう。何が見えたのか言ってみよ。」
国王さまはいじわるそうに笑いました。

占い師は恐る恐る声をひねり出して言いました。
「へ、陛下は、ワタシを・・・ここ、こ、ころ・・・。」

その言葉を途中で遮るように大臣は告げました。
「我が国民の心を惑わし、陛下にも無礼を働く
ペテン師め!この者を刑場へ連れて行け!」
大臣のそばに控えていた兵士たちが占い師を
捕まえ、連れて行こうとしました。

占い師は必死に言いました。
「ひぃっ!陛下、どうかお許しを!ワタシは・・・。」
占い師の顔はもう見えませんでした。


むかしむかし、あるところに平和で豊かな
王国がありました。
その王国は子供から大人にまで、みんなに人気の
国王さまが治める、のどかで美しい国でした・・・・・・。

おしまい。

[あとがき]
この短編は私の創作部の先輩であるHAさんが
文化祭向けに発表したものを、今の私なりに
アレンジし、ブラッシュアップしたものです。

ちなみに冒頭の一文はあるゲームのストーリーの
書き出しをそのまんま拝借しました。
(わかる人いるんだろうか。)

原作から大きくアレンジしたのは占い師の
表現方法です。
占い師が何か言う、その都度表情を描写する、
という形で「スゴいんだけどなんかハナにつく奴」
といった見せ方を強調してみました。

似たような表現を繰り返しているのは、少しづつ
変化していく様子を見せたかったからですね。

商人のネコは言わずもがな、占い師自身の
未来を暗示しています。

HAさんはブラックユーモアがお好きな人で、
こういった作品をいくつか書いていました。
シューティングゲームが得意な人なのですが、
彼のハイスコアネームは「DEADEND HA」、
どこまでもブラックです。

推敲及び入稿のためのワープロ打ちを
担当していた私の心に残っている、
結構好きな作品でした。

・・・ワープロって、時代を感じるなぁ(笑)。

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