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第7話 お通夜の日の不思議な現象





🌻 実話を発信する目的と理由 🌻



🌻 前回までのあらすじ 🌻


 7年前、人間ドックで腎臓の異変を指摘された時、私は亡き父の姿を思い浮かべた。父は、私が6歳の時にくも膜下出血を発症、植物状態に。生活も一変し、母は家族を守るために昼夜仕事へ。奇跡的に回復した父は自宅療養に至ったものの、私はハンディキャップをもつ父を受け入れることができず、見下すようになる。その矢先に父は帰らぬ人に。

 第7話では、お通夜の日に体験した現象について振り返る(1702文字)。




1.お通夜の日


遺族にとっては亡き人と過ごすための最期の時間であり、故人にとってはこの世に別れを告げ、旅立つ準備をするための儀式とされています。


夜も深まり参列者の足が途切れた頃、私は母とふたりで棺が置かれた部屋にいました。
縁側に面していたその部屋は、参列者が入ってこられるように常時開放されおり、祭壇上に灯された明かりが煌々と闇夜を照らしていました。


「明日になったらお父さんに会えなくなるから、顔を見ておきなさい。」
夫を亡くした直後だったのにもかかわらず、母はその時も毅然と振る舞っていました。
私は言われるがまま、棺に手を伸ばしたのです。

私はこの先永遠に、父と再会できることはないと思いこんでいました。
なぜなら、翌日にも父の体が燃やされてしまうからです。




棺の表面には小窓が付いており、手前に引くと故人の顔を確認することができます。

母はしばらくの間私のそばにいてくれたのですが、用事を済ませるためなのか、気づいた時には部屋を後にしていました。
誰もいない部屋で一人取り残された私は、恐る恐る棺の小窓を開けたのです。

すると、棺の中に光が差し込み、仄暗い木箱の中から父の顔が見えました。
私は一瞬にして怖くなりました。



私は父のことが好きだったのです。
元気だった頃の父には、いつまでもくっついていたいと思えるような安心感と居心地の良さを感じていました。
けれども遺体を見た瞬間、愛着も過去の記憶もかき消され、恐怖だけを感じていたのです。
私は取っ手をつかんだまま、自分の感情に飲み込まれそうになりました。




2.謎の煙


その時です。
突然、白いモヤが父の顔を覆い始めました。
モヤはタバコの煙をギュッと凝縮させたかのような白い塊になり、棺の中からゆっくりと浮かび上がってきたのです。


突然の出来事に私は驚いたのですが、なぜか、吸い寄せられるかのように謎の煙を目で追い続けました。
煙は棺の上をゆっくりと漂った後に向きを変え、縁側の方へと静かに進んでいったのです。

『どこに行くのだろう…… 』
私には意志を持って動いているかのように見えました。



煙はゆらゆらと漂いながら、暗闇の中へと静かに消えていきました。
煙が姿を現してから消えるまで、時間にすると1、2分ほどだったでしょうか。
それからハッと我に返った私は、いてもたってもいられなくなり、母を求めて部屋から飛び出したのです。

あの現象はいったい何だったのでしょう。
私は誰にも言えずにいました。




3.旅立ち


謎の煙を目撃したのは私だけでした。
そして、何事もなかったかのように翌日の告別式を迎えたのです。

喪服を着た参列者が自宅の前で立ち並び、霊柩車の行く末を見守っている場面が記憶に残っています。


数ヵ月前、私は家の中から同じ場所を見つめていました。
長い入院生活を終えた父が、家に帰ってきた瞬間だったからです。




父はこれから旅立とうとしています。



私は親戚のおばさんや参列者とともに霊柩車を見ていました。

「どうして私は乗れないの?」

隣にいたおばさんに尋ねると、人数制限があるから乗ることができないと教えてくれました。



母と兄姉を乗せた霊柩車が火葬場へ向けてゆっくりと動き出した時、私はひとりぼっちになってしまったかのような孤独感を感じたのです。
つい数日前まで、ハンディキャップをもつ父のことを見下していたのに、そばにいたいと思ったのでしょうか。



実は、家族のなかでも私だけが父の死に目にあえずにいたのです。
入浴中に発作を起こした父。
心臓麻痺で亡くなったと、後で聞くことになりました。



死に目に会えなかったこと、
お通夜の日に謎の煙を見たこと、
そして、霊柩車に同乗できなかったこと……。

『煙の正体はお父さんの魂で、死に目に会えなかった私のところに会いに来てくれたのかも…… 』
いつの頃からか、私はそんな風に解釈をするようになりました。


お通夜の日から何年も経った頃、私は母に「煙のこと」について打ち明けました。

「きっとお父さんが会いに来てくれたのだと思う。」

「そうだね、そうかもしれないね。」
母は否定することなく、私の気持ちに寄り添いながら優しくうなずいてくれたのです。






つづく


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