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母の味

母の味といえば、真っ先に思い浮かぶのは餃子だ。
家族も親戚も、母がつくる餃子が美味しいとそろえて言うのだ。
「そんなことないよ」
母はそう言うが、料理が上手なのだ。
母のごはんはいつでも美味しい。一人暮らしが長くなって余計に感じるようになった。私もそれなりに料理をするし、あの味を再現できるものもある。それでもやはり母がつくるからこそ、母の味なのだ。

そんな母の味を再現できず、越えられもしない料理のひとつが餃子だ。
これはお母さんあるあるかもしれないが、レシピを聞いても適当だと返される。感覚でつくっているならもう、同じ味はつくれないと決まっているのに。

白菜たっぷり、ニラと生姜、豚ひき肉。
塩、中華だし、醤油、ごま油に片栗粉。

これだけなのだ。
大定番の組み合わせで本当に美味しい餃子ができる。
皮は市販のもので、ひとつずつ丁寧に包む。小学生の頃から餃子を包む手伝いをしていたため、今となっては目をつぶっても包める程だ。
ちょっと大袈裟に言いすぎた。

母の包む餃子は餡がたっぷりでふっくらとしている。
焼き加減も天才的で、羽まで付いてくるのだ。
その餃子を思いおもいのタレで食べる。私はポン酢に食べるラー油をたっぷり入れるのが好きだ。そして、ぎっしり詰まった餡と肉汁で口の中が満たされる。しあわせの極みである。

大豆田とわ子の三人の元夫というドラマが好きで、もう10回以上は見ている。ドラマ内には餃子を包むシーンがある。

「こうやって見ると個性ありますね、この餃子、田中さんぽいじゃないですか」
「そうだね」
「確かに」

大豆田とわ子と三人の元夫
第一章完結・全員集合地獄の餃子パーティ

だから母の餃子が好きなのだろう。母のすべてとは言わないが、2割ぐらいは詰まっているのではないだろうか。どんな食べ方をしても美味しいところも、母の餃子らしいのかもしれない。


そして、私にはちょっとした夢がある。

「今日なに食べたい?」
「餃子」
「え、今から?」
「うん」
「聞いておいてごめんなんだけど、時間かかるよ?」
「お母さんの餃子おいしいから」
「そんなこと言われたら、作るしかないね」


ちなみに私が帰省したときのごはんリクエスト。
夏はなす田楽、冬はおでん。
通年で餃子だ。

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