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戯曲「旅行代理店」


客:あのー、よろしいですかね。
竹田:どうぞ!
客:こちらJTTさんですよね?
竹田:ええ。
客:すいません、突然。
竹田:いえいえ、ちょうど空きがありましたから。こちらへどうぞお掛けになってください。
客:あ、ありがとうございます。

竹田:お越しいただき、ありがとうございます。私、竹田と申します。
客:あ、よろしくお願いします。

進藤、お盆でお茶を持ってくる。

竹田:(お茶を差し出しながら)どうぞ。
客:ありがとうございます。
竹田:あ、冷たいお茶もありますが。
客:いえ、大丈夫です。

竹田:結構迷いませんでしたか?
客:実はかなり。
竹田:多いですからね。今は。大手だけじゃなくて外国人の新規代理店も増えてますから。
客:ええ。

竹田:本日はどのようなご要望で?
客:そうですね・・・えっと・・・
竹田:・・・

客:すいません、実は旅行代理店って利用したことが無くて、ちょっと勝手がわからなくて。
竹田:そうでしたか。いやいや、大丈夫ですよ。そういう方結構おられますから。
客:そうなんですか。
竹田:ええ、近頃はネットやアプリで申し込む人も増えてましてね。直接店舗まで来られる方は意外と少ないんですよ。
客:へえ、旅行って言ったらまず旅行代理店に行くイメージでした。
竹田:ですよね。あ、進藤ちゃん、荷物カゴちょうだい。
客:背もたれにかけるので大丈夫です。
竹田:そうですか?進藤ちゃん、やっぱいらないってさ。ごめんね。
客:あれですね。この辺やっぱりガイジンさん多いですねぇ。
竹田:ですね。春節ですからね。
客:大通とかまぁ多くて。
竹田:雪まつりですか?
客:やっぱそれですかね。
竹田:今年はまた増えてきてるらしいですね。
客:いいことなんですけどね、でもちょっと賑やかすぎる気も。
竹田:わかります。あ、今年の大雪像観ました?
客:観れてないんですよ。
竹田:そうでしたか。もったいない。
客:でも知り合いが観てきましてね、そうそう、有名人来てたんですよ。
竹田:そうなんですか?誰ですか?
客:ほら、あのテレビでよく観る、夢グループの社長です。
竹田:来てたんですか?!
客:え?ええ。お好きなんですか?
竹田:毎週観てますよ。あれ面白いですよね。
客:ええ、これ、写真送られてきて。ケータイの写メ
竹田:うーわ。凄い七三。あ、女性の方も。
客:生で歌ってくれましたよ。
竹田:へえ。本当にいたんですね。

竹田:あ、ではそろそろ具体的なプランのお話をさせていただいてもよろしいですか?
客:はい、すいません。話逸れちゃって。と言っても、今日はほんの相談みたいなものでして。
竹田:大丈夫です。場所の希望とかありますか?
客:そうですね〜国内は・・・なんか違いますよね。
竹田:まぁそうですよね。あ、こちらパンフレットです。
客:ありがとうございます。シンガポール、台湾・・・うーん。なんか違うなぁ。
竹田:そうですか?
客:せっかく海外行くならね、やっぱりこう、海外チックな所がいいじゃ無いですか。
竹田:海外っぽい所ですか。ヨーロッパとか?
客:そうそう。
竹田:いいですよね〜海外海外してるところ。
客:ですよね。ザ・外国って感じ。
竹田:海外感溢れてる所なら、アメリカ方面もいいですよ。カナダとか。
客:いい!エキゾチックな感じしますね。そこら辺がいいです。
竹田:わかりました。ご希望はエキゾチックなカナダ系と。
客:カナダってクマとか出るんですかね。
竹田:出ますよぉ!
客:やっぱり?!怖いなぁ。
竹田:大丈夫ですって。そんな滅多に出ませんよ。
客:そうなんですかぁ?でもなぁ。
竹田:北海道だって出るじゃないですか。
客:まぁそうっちゃそうなんですけどね。
竹田:別の場所に変更なさいますか?
客:ちょっと他も観てみます。
竹田:かしこまりました。


客:そういえば最近悪徳の旅行代理店が増えてるんですってね。
竹田:ああ、そうなんですよ。ホント同業者としてお恥ずかしい限りです。これフランスとイギリスとスペインです。
客:どうも。でもやっぱりちゃんと旅行代理店案内所を使って正解でした。
竹田:駅前ですか?
客:いいえ、すすきの交差点の方です。
竹田:あそこにもあるんですか。
客:ええ、最近できたとか。
竹田:人通り多いですもんね。
客:でもなんか友達から聞いたんですけれど案内所の中にも悪い代理店ばかり紹介するところがあるんですって。
竹田:ですね。特に南5条あたりは結構そういうの多いですね。
客:ああ、ラウワンあたりですか?
竹田:もうちょい南側です。
客:確かにあそこら辺入り組んでますもんね。
竹田:最近だと旅行代理店案内所のガイドなんかもあるんですよ。
客:知ってます。というか使いました。
竹田:そうでしたか。
客:お、スペインいいですね。
竹田:いいですよね。料理も上手いし。
客:料理うまいですよねぇ。パエリアとか・・・パエリアとか。あとは・・・パエリア。
竹田:パエリア美味いですよねぇ。
客:ジプシー・キングスが好きなんすよ。
竹田:『ボラーレ』ですか?
客:そうそう。あと『インスピレーション』とか。
竹田:それ知らないです。
客:鬼平犯科帳のテーマです。
竹田:ああ、あれですか!洋楽とかお好きなんですか?
客:ええ、まぁ昔車で親が流してて、それで好きになったパターンです。
竹田:ありますねぇ。そのパターン。僕も親がずっと米米流してて、それでハマりました。
客:米米もいいですよねぇ。というかまさに旅行って感じですよね?あれ、ほら、
竹田:浪漫飛行ですね。
客:みんなカラオケで歌ってました。懐かしいなぁ。飛行機のCMでしたっけ?
竹田:そうですね。あ、そう言えばご旅行は飛行機になさいますか?それとも船での移動もございますが。
客:あ、すいません。すっかりそれちゃって。それなんですよねぇ。船と飛行機ってどういう違いが出るんですか?
竹田:飛行機だと船より短時間での移動が可能ですね。あと料金も安くなる場合が多いです。
客:料金かぁ。
竹田:船だとゆっくりになるんですけど、船内のレジャー施設や景色を楽しんでいただくことが可能となっています。
客:温泉とかもついてるんですか?
竹田:そうですね。フェリー船の種類にもよるんですが、大体は大浴場が備わってますので、海の景色を観ながらゆったりとした旅を楽しむことができますね。
客:いや〜、迷いますね。単純に多くの場所を回るだけなら飛行機なんですけど。
竹田:飛行機でも海外までなら移動時間も結構ありますからね。
客:フェリーかなぁ。
竹田:現時点ではフェリーでの移動を希望ですね。
客:とりあえそれで。
竹田:ちなみにご予算はどの程度を?
客:予算ですか。まぁ100万以内ですかね。
竹田:かしこまりました。
客:足りますかね?
竹田:場所にもよりますが、でもまぁ大丈夫です。これだけあれば相当な高級ホテル宿泊などが無ければどこへでも行けますね。
客:そうですか。
竹田:期間はどうなさいますか?
客:1週間くらいですかね。
竹田:1週間、と。これより長くなったりしても大丈夫ですか?
客:え、ええ。まぁそこは僕あまり関係ないですからね。予算の問題はあるかもしれないですけど。
竹田:かしこまりました。ではおよそ7日から9日間を目安にプランニングしていきます。
客:お願いします。
竹田:あ、お茶お注ぎいたしますね。
客:ありがとうございます。
竹田:進藤ちゃん!お茶のお代わり!え?ない?高いのしかないの?ちょっと待ってよ。

竹田:あの〜、お飲み物なんですが、ちょっと今切らしてましてて。
客:あ、大丈夫ですよ。お気になさらず。
竹田:ちょっと高いのしか無いんですけど。
客:あ〜、でも喉かわいちゃってますよねぇ。
竹田:ですね。僕ももう飲み干しちゃったんで。
客:ボトルでいただいちゃおうかな。
竹田:ありがとうございます。進藤ちゃん!ボトル一本入りました!

竹田:では次なんですけど、当店につきましては従業員が私、竹田かあちらの進藤になってまして。
客:はい。
竹田:どちらを旅行させますか?
客:やっぱそうなりますよねぇ。
竹田:旅行代理店ですからねぇ。
客:竹田さんは海外経験は?
竹田:ないんですよねぇ。
客:そうでしたか。
竹田:ちなみに進藤もヨーロッパは無いですね。
客:アジア圏ですか?
竹田:そうなんですよ。

客:でもあれっすね。旅行代理店って不思議なサービスですね。
竹田:そうですか?
客:だって、お金を払って代わりに旅行に行ってもらうなんてねぇ。
竹田:まぁそうおっしゃる方もいますが、でもよく考えたら当たり前のことじゃないですか?
客:え?
竹田:旅行代理店ですよ。例えば広告代理店ってありますよね?
客:はい。
竹田:あれってクライアント企業の広告活動を代わりに行うってサービスじゃないですか?
客:ええ。あ、つまり○○代理店は○○を代わりにやってくれるってことですか。
竹田:そうなんですよ。
客:なるほど。やっと合点がいきましたわ。旅行代理店ですもんね?旅行を代理するんですもんね。
竹田:ええ。

客:でもね、やっぱり変だなぁって。だって僕は旅行に行かないんですよ?
竹田:そうですねぇ。じゃあこう考えてみてください。キャバクラ。
客:キャバクラ?
竹田:キャバクラってあるじゃないですか?お客様は例えば自分がキャバクラに行ったらどうしますか?
客:え、そうですね・・・お店の人たちと喋ったり、あとはお酒を頼んだりしますね。
竹田:ですよね?お酒を頼んだら、誰が飲みますか?
客:まぁ僕も少しは飲むかもしれないですけど、大抵は指名した子に飲んでもらいますね多分。
竹田:はい、それなんですよ!お客様はわざわざ高いお金を払ったのに、実際にお酒を飲んだりするのはお店の子たちなんですよ。これって・・・
客:旅行代理店と同じだ!
竹田:その通り!
客:なぁんだ!普通のことじゃないですか!
竹田:ええ。でもまぁ、それを当たり前と思わない人が多いから、私たちみたいな小さな店舗は苦しい所なんですけれどね。
客:そうなんですか。
竹田:ですがお客様は勇気を出して、わざわざ私たちの所まで来てくださった。本当にありがとうございます。今日は誠心誠意、おもてなしをさせて頂きます。

竹田:どちらになさいますか?
客:えっと・・・竹田さんか進藤さんですよね。
竹田:はい。
客:うーん。やっぱり竹田さんには一度海外に行ってもらいたいなぁ。
竹田:本当ですか!ありがとうございます!

竹田:こちら私のLINEのQRコードです。
客:はい、失礼します。

竹田:進藤ちゃん!俺だってさ!初海外!

進藤、竹田の背中をたたく。

竹田:いつもありがとな。たくさんお土産買ってくるからさ。
客:登録、しました。
竹田:ありがとうございます。アイコン100日後に死ぬワニなんですね。
客:そうなんですよ。

互いにスタンプを送信し合う。

竹田:次なんですけど、私が旅行をする際に、これだけは味わって欲しいといったサービスなどはありますか?
客:味わって欲しいサービス?
竹田:そうですねぇ。例えばこのスポットは絶対訪れて欲しいとか、この料理だけは食べてきて欲しいとか・・・
客:なるほどねぇ。うーん。実際に行ったことはないですからねぇ。料理か。パエリアは美味しいだろうけど・・・

客:あの〜、旅行先を増やすことってできたりしますかね?
竹田:可能ですが、よろしいんですか?行くの私ですけども。
客:ええ。
竹田:どちらまで?
客:僕、実はデニッシュが凄く好きで。
竹田:デニッシュ?デニムシューズですか?
客:よく菓子パンコーナーとかにあるんですけども、パイとパンの中心みたいな・・・
竹田:パイとパンの真ん中。
客:ええ、パイのような香ばしさがあるんだけれども、パンのような柔らかさもあるって感じですかね?
竹田:へぇ。
客:あまり食べられないですか?
竹田:いや、昔給食のパンが苦手で。
客:あ〜。コッペパン?
竹田:ええ、僕、昔小食でしたから、時間内に食べることができなくて、それで居残りで食べさせられたりして。なんかパンが苦手っていうか。
客:そうなんですね。
竹田:あっ!でも行かせていただいた際はぜひ
客:無理をなさらなくとも。
竹田:いえいえ!お客様が勧めてくださったものですからね!その・・・パイパン?
客:デニッシュです。
竹田:デニッシュですね。ぜひ食べてきます。
客:デンマークが発祥らしいんですよ。
竹田:ああ、それで行き先の追加を。
客:スペインとデンマークって近いんですよ。ほら!(地図を見せる)
竹田:本当ですね。そこで本場のパイパンを
客:デニッシュです!・・・でも確かにデニッシュって、デニッシュって感じじゃないですね。
カニパンはカニの形のパン、あんぱんはあんこの入ったパンですもんね。
竹田:デニッシュって言ったらねぇ、なんですかね、
ロバートデニーロのバッシュですもんね。
客:もしくはデニーズで祝賀会ですね。

竹田:ちなみにパイパンはお好きなんですか?
客:はい好きです。
竹田・客:へへへへ。


竹田:進藤ちゃんこれ追加で。(メモを渡す)

バリカンで剃る音
進藤:あ"あ"あ"っ!!

竹田:では、7泊8日のスペイン旅行。
ホテル代、お土産代込みで、お会計の方は78万円です。
客:78万円ですか。意外と安いですね。

竹田:最後にこちらの質問シートを振り返らせて頂きます。
客:はい。
竹田:好みはエキゾチックなカナダ系。もしくはスペインっぽい情熱系のパイパンがお好きと。
客:そうですね。
竹田:かしこまりました。ではこちらで決定とさせていただきます。

スペインっぽい感じの曲が流れる。スポットライトに照らされた進藤が現れる。
進藤、バラを咥えて、スペインの踊り子っぽい格好で登場。

客:・・・スペイン・・・楽しんできて下さい。
竹田:・・・はい!

竹田 キャリーバッグを片手にハケる。
客、進藤の手を取る。赤照明フェードイン。

スペイン風の音楽に合わせて妖艶に踊り始める。

音量を上げる。

照明暗転




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