始動3話
始動3話
「まさか、中佐に楯突くなんてなぁ…」
「…それは……もう言わないで下さい」
面白がるビルトに、リースは顔をしかめた。
「まぁ、お前の気持ちは分からん訳でもない」
「……」
ビルトの率直な言葉に、リースのポーカーフェイスが一瞬だけ崩れた。
「俺は、『お前』に期待しているからな」
「ー…俺の事、お見通しなんですね?」
ビルトには、自身の思いなど見透かされているに違いないと、鋭い洞察力に根負けするリース。だが、敢えてそれを口に出さないのもビルトの良いところだ。
「大方はな。大体、お前は何でも気にし過ぎなんだよ。少しは楽にならないとーー」
ビルトはそこで一旦言葉を切った。
「ならないと…?」
彼の妙な沈黙に訝しがったリースはおうむ返しで聞き返し眉を顰める。
「……ハゲるぞ」
「……は、ハゲ……?」
ビルトの意外な一言に、呆気にとられながらも、リースは手を自分の頭に持っていき呟いた。
「……」
神妙な顔つきをしつつ、ビルトはリースの呟きに黙して頷く。
「……」
しばし無言で自身の髪を軽く撫でつつ、
(…ハゲるのは勘弁して欲しい……)
思い、少し苦笑するリース。
「まぁ、あまり悩まんこったな」
言うなり、ビルトは目の前の青年に煙草を勧める。
「ーー頂きます」
リースは上司に差し出された煙草で一服する。
「本当は、酒がいいんだけどな~」
冗談混じりに笑いつつ顎をなでるビルト。
「いえ。自分はこれで充分です」
ーーリースは本心からそう思う。
この人と吸う煙草はいつでも美味い。そしてまた、これが自分にとって心休まる一時でもあった。
「ー…あちゃ~。どうしようもねぇな~…ったく。また、だな~…」
あれからすぐさまリースは、任命許可を貰い定刻通りにSD隊員が身を置くミッド連合第一・第二支部へと移動するべくタクシーに乗った。
第一・第二支部は、ルーンヴァレイ公国のヴァレスティア市にある。もうすぐ支部に着きそうなところで、タクシーの運転手が口を開いたのだった。
「……どうかされましたか?」
リースは当たり障りなく運転手に尋ねる。
「…ん? あぁ、交通規制されたんだよ。またどっかの騎士軍が悪さしに来たらしいな」
リースの問いに運転手は呆れながら言い、目の前の規制されている道路を横目で見ていた。倣って、リースも前方付近に目をやる。
規制されたロープの奥には遮るように、ミッド連合警察パトロール車が横付けされていた。そのまた一キロ先は、支部の向かいに位置する森林公園があるのだが――
(何か、あったのか?)
リースは少し嫌な予感がして、「運転手さん…ここで、降ろして貰えますか?」と、取り急ぎ運転手に料金を渡した。
「…え? あ、あぁ良いが……あんたどうするんだ? 先は行けないよ。…迂回していいなら乗っけるけど……」
運転手の言葉は尤もな意見だった。何故なら、リースは軍服ではなく一般市民のような服装をしていたからだった。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
まだ何か言いたげな運転手を笑顔で制して、リースは規制された道路に直接歩いて向かった。
*****
「おいっ、そこの青年! どこに用だ? 此処から先、一般市民は立ち入り禁止区域だぞ?」
わりかし年寄りな警備隊の男が歩いてくるリースを見るなり持っていた警棒で彼の歩みを止めた。リースの服装は、真っ白な開襟シャツに濃いグレーのスラックスを着ている。
警備隊の男は、訝しげに彼を見定めした。
「すみません。この先に用があるのですが…通して頂けますか?」
そんな男の視線に臆することなく、リースは身分証明書であるMIDカードを見せる。
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