始動2話

始動2話


「…第六執務室? …そうだった。今日はーーいや、『今日から』か……」

 リースと呼ばれた青年は何かに気付き、ウンザリした面持ちで受話器をおき、寝間着から軍服に着替え急ぎ第六執務室に向かった。



 リースのいる場所は、ミッド連合第一本部軍事寮である。第一本部と軍事寮は隣接しており、ブリッジと呼ばれる巨大な橋のような廊下で行き来出来る。


 リースは、ブリッジにてカーゴ(人や荷物等を運ぶ円筒状の乗り物)に乗り、第一本部から第六執務室にたどり着き、扉をノックして中に入る。




「お、やっと来たか。ー…まぁ座れや」

 リースの姿を見るなり席を勧める男。リースは軽く会釈し男の正面にあたるソファに腰掛ける。


「急に呼び出してすまなかったな」

 言いながら、男は煙草に火をつける。


「……いえ」

 軽く首を横に振るリース。

「今日から、だったよな?」
「はい……」

 立ちのぼる薄白い煙の中、二人の声が交互にかわされる。

「まぁ俺がいるからいいだろ?」

「……そうですね」

 リースは向かいの男を煙草の煙越しから、ひたと見据えた。

「そう睨むな。お前にしちゃ、えらく渋ってたがな」

 リースの視線に臆することなく、男は気さくに笑う。


「……」

 男ビルト・カルパスの言葉にリースは一瞬口噤み、先日の軍事会議が脳裏に蘇った。





*****





「……以上、先のSD隊長をリース・ブランズ大尉に任命する」

 大将を筆頭に開かれる軍事会議のなか、アリバ・リオン・フォード中将の声が響く。



「ちょっと待って下さい! 何故自分が任命されるのですか?」

 リオン中将の声に反論するのはリース本人。

「黙れ! 軍人には質問も拒否権も赦されん! お前も軍人ならば任に従え!」

 怒鳴り、拳でドンッと机を叩いたのはホイットン・ハッチソン中佐だった。


「質問や拒否以外に、自分が任命された事に納得出来ません! …自分より、隊長の素質がある方など沢山いるはずです!」


「お前が選ばれたのは、それだけお前を高く評価しているからなのだろうが!」



「ー…っ!」

 ハッチソン中佐の言葉にリースは押し黙る。


(……『高く評価している』? ……誰が? 誰が俺に何を期待しているんだ?)

 皮肉にも似た嘲笑じみた言葉がリースの脳裏に木霊した。



「リース・ブランズ大尉! 聞いているのかっ?!」

 再びハッチソン中佐の怒鳴り声が響く。


「ー…聞いていますよ」

 中佐の声にリースは低く呟きながら立ち上がる。目は、中佐を見詰めていた。

「…? どうしたんだ、大尉」

 本人らしくない、リースの態度に怪訝な顔で声をかけたのは、シュバツァ・ウォドルズ中将。



「どうもしませんよ、シュバツァ中将殿」

 シュバツァに、社交辞令のような笑顔を向けるリース。そしてハッチソン中佐に向き直る。

「…軍人である以上、任に従わなければならないならーー俺は軍人を辞める」

 言い放ち、軍服の左胸についていた軍章を乱暴に取り外し、机に投げ捨てた。

「ー…なっ?! お前一体ッ……?!」
「失礼します」
 
 ハッチソン中佐の言葉尻を重ねるように掻き消し、リースは一言そう告げ一礼してから会議室をあとにした。

 その後――リースの一言で騒然となった会議を収めたのは、リオン中将だった。

 当の俺は、各将官、佐官、尉官の方々に謝りに回り、一週間の謹慎を言い渡された。特に、ハッチソン中佐は懸念に俺を心配したいたようで……実に申し訳なく感じた。

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