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【詩】神のいた裏山で

夏に見上げると
山頂までの石段は高く
風景が遠くなってゆく

風通しが良くなって
木立の中に小さな遊び場がひろがっている
僕はそこで「木霊」(こだま)という
言葉をおぼえた

幼い日のそのままに
すべり台の下には
蟻地獄がいる

蟻を捕まえて
地獄に放り込む
僕にとっては地獄でもないが
蟻地獄は虫の名前でもあり
巣をそう呼ぶこともあって
違うものが同じ名前で呼ばれる

蟻地獄はすぼまった尻の方に
進み巣に帰る

借りた時間を誰に返そうか
思い悩むように
時の音が聞こえてくる
木霊こだまの声を模倣して

溶けたアイスキャンディーを
巣に垂らし込む
蟻も蟻地獄も
悶える

木霊こだまや夏の日の匂いが
風の中に溶け出す

夕暮れまで
蟻地獄を眺め
巣に帰る

それらのその
違う時間を同じ名前で
そう呼ぶ

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