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こちら星空喫茶店#4 真面目な人ほど損をする


「キャランコロン」

鼈甲色の扉を開けて3つの鐘が音を奏で合いました

今夜も星空喫茶にお客様がご来店です

34歳女性会社員
事務職 結婚7年目の既婚者
前髪はセンター分けで肩につくかつかないかの長さ真っ黒でバージンヘアの持ち主である
丸メガネで薄ピンク色の唇は少し乾燥している

こんにちは。
こんな雰囲気あるお店に私なんかが足を踏み入れてもよかったのでしょうか

少し俯きながらそうは聞いているがすでに席には腰を下ろしている

はい、よろしければお飲み物お出しします

店主は今日も人に寄り添う穏やかな声で客を迎え入れる

烏龍茶、できれば温かいので

はい、かしこまりました

今日も事務の仕事でした、私の会社の事務職は同じ30代の女性の方も多いのですが、ほんの少し20代の方も混じってて、謂わゆるキャピキャピ系女子?っていうんですか

まだ34ですけど、なんだかテンションが高い若者の声が耳に入っただけでも最近は疲れてしまいます。

その方々自体が嫌いなんじゃなく、その方々を見て少しモヤっとしていまう自分に疲れてしまっているんです。

私の性格は見ての通りパッとしないし、私服だってベージュ色が多いし、今まで言われたことは規則どーり、指示どーりに行ってきました

出された烏龍茶を小さい口でふうふうしながら一口頂くと少し唇が潤った

私の生き方は今まで間違ったようには生きてこなかったと思います。
会社に遅れたこともないし、家に帰ったら夫の分まで夜ご飯は作って洗濯もして、洗い物だってしっかり洗ってます。

それなのに、こう、心は満たされないといいますか、同じ生活で正しく、真面目に生きている
「だけ」の自分が、こう、たまに虚しく思えてしまう時があって

ティーカップに入った少しぬるい烏龍茶を
半分飲んだ

人と比べるなって世間はいいます
別にキャピ女子と自分を比べてないし
それでどうこうとかはない

なのに

上司が、とか私の同期がそのキャピ女子はいつも明るくて仕事もできるから若いのに偉いわねぇ、え、私たちよりも偉くない?

とかお昼休憩に話してくるんです

ただ彼女らを褒めているだけだからなんだっていいんだけど、その、

私だって偉くない?
こんなにちゃんと生きて、親からもらって命も大切にして、真面目に働いて、

      「何が悪いの?」

私もそう褒められたいのかな

疲れてるのかな

誰かに見てもらいたいのかな?

いまさら?

大人なのに?

キャピ女子とは絶対生きてる世界線違う
って分かってるのに?

何になりたいの

どうしたいの

ぐるぐる頭の中を無造作に回り続ける
私の脳内の思考たちはそつやって
止まることを知らずに今日も駆け巡ります

一通り喋り終わった後に店主は
いつものカンカンから一口サイズの
チョコレートを3粒サービスした

真面目に生きる程、損をする
 誰がこんな言葉をつくったの

どう思う?

はい、
きっと真面目に生きていることは悪いことではありません、
真面目=マイナスなイメージ
という思想が何もなく世の中に漂っているだけです

20代のキャピ女子はきっと要領がいいんですよね?
たまには手を抜けるところは抜いて、
旦那さんに頼ったっていいんです

偉いって言わなくても、ちゃんと日々をこなしているあなた様みたいな人を見てくれている会社員の方は沢山いると思いますよ、
口にしないだけで

キャピ女子みたいな要領のいい人はある意味
分かりやすいんです、じっとしててもあなたの耳に声が入ってくる位なのですから

放っておけばいいんです

人は人、自分は自分

女性は言葉を失いながらも店主のメッセージを噛み締めたようにして烏龍茶を飲み干した

何も言わずに
お札だけ置いて目を拭いながら鞄に手をかけ始めた

今日も店主は下を向いてお皿を拭きながら、
星空喫茶店は時計の針を刻んでいる。

ご馳走様と言って帰って行った

真面目に一生懸命
生きるあなたにいい事一つありますように
たまには息抜きしてね


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