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あなたをこれ以上好きになりたくなくて…


女だって、感情のコントロールはしている 

それは、彼にカッコ悪いと思われたくないからでも、情けない自分を曝け出したくないわけでもなくて、ただただ自分の想いを重いと思われたくないから、自分で自分の想いが重いと認識したくないから…


あなたをこれ以上好きになったら、これ以上辛くなることを分かって


自分の気持ちにストッパーを掛けて、平然を装って、あなたなんかには躓かないわと、余裕のある女のフリをする


本当は、彼が思う以上に好きなのに、その気持ちを心の奥底に閉じ込めて、彼に俺の方が好きだと言わせるように誘導する


彼に自分の思いの丈全部ぶちまけられたらどれだけいいだろう…

気持ちにセーブなんか掛けなくったっていい、そんなあなたとの時間を過ごしたい 
本当はね


彼は我儘で天邪鬼で甘えん坊で

そんな自分の全てをわたしにわたしの気持ち度外視で受け止めさせようとする


わたしはそんな彼を分かっているから、それを全身で受け止めるけれど、そんな彼を受け止めることはきっと
優しさなんかじゃない


愛情プラス母性かな


彼が愛に飢えた人だということも分かっていて、少しでもそこを埋めたいわたしと、埋められたい彼の想いが交差して、本当にそこが交わった時に彼もわたしも安堵する



彼にこれで最後にすると告げた日があった これ以上はもう無理だと…  


それは彼がわたしを送る車中での
ことだった
彼は右手でハンドルを握り、左手でわたしの手を握っていた


彼は驚いた顔をしながらも、わたしの話を黙って聞いていた


唐突な別れの言葉に衝撃を受けたことは見て取れたが、いつもの彼なら反論してきたり、また天邪鬼な言葉でわたしを詰る


でも、彼はそれをしなかった そんなことはこれまでになかった

「最後にキスをして別れよっか」


彼は拒絶すると思っていた 別れるのにそんなことをする意味があるの?と
そんなわたしの予想に反して彼は素直に小さな声で、うんと、言った  

握っていた手も離しはしなかった
彼の性格上、意地を張ってしまえば、きっと、いや必ずわたしの手を投げるように離して、キスを拒む それが出来ないくらいに、お互いの今の置かれている状況に囚われすぎて、その手にもその唇にも、力が入らなかった…ふたり


今までに見せたことのない彼の表情に動揺しながらも、軽いキスをして、彼の車から降りた 彼が助手席のパワーウィンドウを下げ、わたしをじっと見つめる


「なんて顔してるんだよ…」

そう言ったあなたの顔も
わたしと同じ顔をしているよ…


家に帰って思い出されるのは、彼の寂しそうで悲しそうな顔と、いつもの天邪鬼を封印した彼の初めての姿だった


これで最後にすると決めたのに、もうやってけないと思ったのに


彼に対して、愛情より母性より
情が、勝った


男と女の中で、一番説明がつかない感情、それが情なんだと、思う


頭では別れた方がいいと分かっていても、情がそれを邪魔する

彼のあの時の顔を思い出しながら
彼にLINEをする

「今日はありがとう さっきはごめんね」

これ以上は言う言葉が見つからなかった


彼はついさっきまでの時間をなかったことをするように


「俺も今日も楽しかった
いっぱい一緒にいられて嬉しかった」

「会ったばかりなのに、もう会いたいと思ってる cocoに早く会いたい」


「また来週ね」


この人と一体どうしたら別れられるんだろう…


くっつく時は早いのに、別れるのは簡単にはいかないのが男と女で


ケンカばかりの毎日で、彼に嫌気がさしながらも、時折見せる素直でかわいい彼に翻弄される自分がいる


これ以上好きにならないようにセーブは掛けられるかもしれない でも、彼に対して湧き出てくる情が、どうにもならない


結局、わたし達の間に起きた亀裂の事由には、お互いに触れずに、いつも通りの朝を迎えた

LINEでおはようと言い合ういつもの朝


本当は問題に直面して答えを出さないといけないのに


お互いに直視することを避けて、曖昧でも気持ちだけで突き進む…


彼を愛しているかどうかのジャッジは下さない 今は、クリアに、彼と今離れることができる?と、自分に問うて


彼から離れることも手離すこともできないという結論の元、彼と一緒にいる


ふたり、なんて顔してだよってあの瞬間が全てだと思ってる


どうせその内大ゲンカして別れちゃうんだ


それなら、今でなくていい


今日出来ることを明日に回す


そんな恋もあった…


あなたをこれ以上好きになりたくなくて、自分の気持ちを抑え込んだ恋が…



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