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学祭公演『おとしもの』5

3人の男達は揉み合いながら舞台の方に向かっていく。
真ん中の男が抵抗しているようだが、無情にも舞台の上に連れて行かれた。

「被告人は証言台へ」

女検事が証言台の方を指し示す。
客席から連れ出された男は両脇を抱えられながら、証言台の前に連れていかれる。

「お前らこんなことして何のつもりだ!」

男は身体を両側から抑えられたまま、怒りをぶつけた。

「静粛に。被告人は聞かれたことだけに答えなさい。そうすれば、解放してあげましょう」

その女検事の言葉に、男は睨み返した。
しばらく睨み続けていたが、客席の方に一瞬目をやり、観念したように肩を落とした。

「それでは審議に移ります。あなたの犯した罪について」

突如、舞台に上げられた男の存在に、客席がざわついている。
あの男が客席から舞台に連れ出されたのは演出なのか、それとも・・・。
いずれにしても男のただならぬ様子は、演技だとしたらなかなかのものだ。
そんな客席のざわつきに少しも動じず、女検事は続ける。

「あなたの罪、それは虚偽の情報を世間にばら撒いたことです。白を黒と言い、火のないところに煙を立て、騒ぎ立て、多くの人を傷つけた。違いますか?」
「・・・なんだそりゃ」
「早く答えなさい」

男は怠そうに溜息をついた。

「こりゃあ、誘導尋問ってやつだろ?・・・まったく、こんな裁判あってたまるか」
「YESかNOで答えてください。あなたは虚偽の情報を世間にばら撒きましたか?」

男の両側にいる2人が拘束の手を強める。
男は「ぐっ・・・」と息を漏らした。
観念したのか男は答えた。

「虚偽の情報っつうと語弊があるだろ。俺だって裏が取れてない情報については断定的な言葉は使ってない。〜かもしれないとか〜と予想されるみたいにボカしてるんだから、文句を言われる筋合いなんてない。だから、答えはNOだ」
「・・・そう。よく分かりました」

そう言って女検事は少し後ろに下がった。
これで終わりかと思い、男は肩の力を抜いた。
その様子を舞台の端で見ていた青年が言った。

「あの被告人の男性・・・見覚えがあります」

男は「また何か始まったのか」とばかりに青年の方を向く。
青年は男の元に駆け寄る。

「山形先輩ですよね?」

男は急に名前を呼ばれた上に先輩と呼ばれてどう対処したらいいかわからない様子だ。

「僕ですよ、僕。大学の時、ゼミでお世話になりました」

山形と呼ばれた男は、「何言ってんだ?」と言った表情で青年を見る。

「忘れちゃったんですか?まあ、僕は目立たない方でしたから仕方ないですね・・・そういえば、山形先輩、新聞記者になって世の中の不正を正すのが俺の夢だって言ってましたけど、夢は叶いましたか?」

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