見出し画像

デッドオアライト 21

「複数犯・・・ということですか?」

医者の殺し屋は集団だという久代の仮説に三島哲也は意図を図りかねていた。

「だとしても、殺し屋が何人かいるってことでしょ?どうして殺し屋がいないなんてことになるんです?」

白木も三島哲也に続いて質問した。
2人の質問に久代はゆっくりと頷いて言った。

「そう・・・僕も当初、そう思いました。じゃあ、浮かび上がった一人の医師の名前は何なのか・・・それが疑問に残ります。どの権力者が亡くなったときのも同じ名前の医者が診察をしているという問題です」

三島哲也が少し考えてから「偽名・・・」と呟いた。

「その通り。あの医師の名前は偽名でした。そして実際に診察を行った医師は別にいます」
「じゃあ、その実際に診察を行った医師が殺し屋ってこと?」

白木の問いに久代は鼻の頭を掻きながら答える。

「実際に診察を行った医者もただの医者です。ただ、その医者の手元には誤ったカルテが回されていたのです」
「誤ったカルテ?」
「はい。例えば、全くの健康体の患者に対して糖尿病の患者のカルテが回ってくるわけです。そうなるとどうでしょう?一般的には糖尿病の薬の副作用は強い空腹感、脱力感、発汗、手足の震え・・・後は貧血なんかがあるそうです」

「でも」と言ったのは白木だった。

「そんな分かりやすい副作用が出たら、薬がおかしいんじゃないかって思うのが普通なんじゃないですか?」
「その通りです。大抵の場合、患者は医者に副作用を訴えます。医者は患者の様子を見ながら薬を軽度なものに変更します。副作用が出ないような効果の薄いものにね」
「そんな薬じゃあ、人は死なないんじゃないですか?」

白木の質問に対して、久代は三島哲也の方を見た。

「こういうことは三島さんの方が詳しいんじゃないですか?」

急に話題を振られた三島哲也は、満更でもなさそうに咳払いをして答えた。

「まあ、その類のことは一通り学びましたからね。結論から言えば、健康体の人間が日常的に服用していて寝たきりになるという事例もあります。最悪の場合、死に至ることもあるかもしれませんね」

そんなこともあるのか、と頷きながらも白木はまだ納得できないでいた。
頭の中にあるもやもやしたものをゆっくりと言葉にしていく。

「だとしても、その薬で死んだんだったら、真っ先に疑われるんじゃないですか?」
「司法解剖でもされない限り、薬の成分は分からないですよ。検死の結果、他殺の可能性があれば司法解剖されるでしょうが、急に倒れたとなれば話は別です。もちろん、医者が血液なんかを採取するでしょうが、数年単位で服用している薬が原因だなんて思いますかね?」

三島哲也の言葉に白木はついに黙り込んでしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?